わかってる。
 みんなが聞きてえことはわかってる。
 なんでアルを止められなかったか。
 どうして土地神様の力で野生化を止められなかったか。
 んなもん簡単だ。
 アルが人間を殺しちまってたからだ。
 野生化して最初の犠牲になったのは誰だと思う?
 まあ、そりゃ後から話すとしてよ。
 ナコをとっちめて、ルルの偽モンをぶっ倒して、いろいろ思うとこあったんだろうな、アルは高熱を出して寝込んでたんだ。
 一番頑張ってたのにこれだもの。
 せめてアタイが一緒にいたらシノの父ちゃんは守れたんだろうけどさ、いや、アタイじゃなくても誰かいたら。
 アイさんは新人達と残党ナイトメアの殲滅に出てて、リオは悪徳ソリティアンと悪い人間がよろしくやってる組織に潜入捜査。
 ルルはクレスと土地神様にご挨拶しに行って、シノはマグスとかっつールルの母ちゃんの仕事を勉強してた。
 んでなー、多分、ルルとクレスが挨拶しにいった時に何かやっちまったんだろうなぁ。
 急ぅーに、どかんって揺れがきていきなし驚いたんだ。
 あん時は職員室で生徒達と教頭から任された体育祭の仕込みやっててよ。
 みんないんのに腰抜かしちまって、えらい心配されたんだわ。
「レイちゃん、大丈夫?」
「東北出身だもんね、やっぱあの時の地震思い出す感じ?」
「ソリティアンになっても、やっぱ人間だよね、なんか安心する」
「うるせえ」
 てーせー。
 こいつら心配してねえ。
 いんや、ありゃ冗談ばっかしいって、気ィ紛らわしてくれてんだった。
「にしてもなんだろうね。火山でも噴火したのかな」
「ネガティブタイドの花お化けが止めたんじゃなかったっけ?」
「あー、ネットで見た。確か木の根でマグマの流れを増やしたとか!」
 ぷっはは、花お化けだってよ、ルル。
「あの花お化けって、レインちゃんの先輩なんでしょ?」
「えっ、でもたまに見るけどタメ語じゃね? ていうかむしろレイン先生のほうが頼りがいあんじゃん」
「でも頭いいらしいよ。アニキがルルっちの講義受けてんだけど」
「マジなの? レイちゃん」
「おっ、そうなのけ?」
 つーか大学でなんかやってるぐらいしかわかんねかった。
「ってマジいつまで机掴んでんの? もう収まってるって」
「そーそ、早く会場の図面作って帰ろうよ」
「んだな」
 へぇーえ、若え奴らの言葉にゃ元気づけられるな。
 去年の図面にトイレ減らして露店さ足すって、こいつら、体育祭をホントの祭りにする気だな。 
「おい、露店ばっか増やすな。教頭に怒られっから!」
「親父が店出したいってうるさくてさぁ。娘の活躍観ながら商売できるって」
「祭り違いじゃねえかよ、もー」
 とかなんとかやってるうちに、結局トイレ減らして近くの商店街から露店さ募ることにした。
 なんかこう、思い出すなぁ。仮設住宅暮らししてたトコにボランティア行った時、やってたなぁ。
 別の県のそば屋とかパン屋がやってきてて、炊き出ししてんの。
 しかも自分たちで発電機とか材料持ち込んでな。
 でも今から話して間に合うもんなのかな。
 まあ、そこんとこは先輩先生にまかせっぺ。
 こうやって楽しく話してるとこに、あの事件はやってきた。
 アタイが知ったのはリオからの知らせだった。
「レイン! 野生化ソリティアンが校庭に出てるっての! 今、クレスが止めてる!」
「おめさんら、早くけえれ!」
「はーい」
 日頃の避難訓練の成果か?
 だいぶ落ち着いて帰り支度を始めた。
 いいことだ。きっとでっけえ地震が来ても、こいつらなら生き残れるだろうよ。
 にしてもなんで野生化ソリティアンが校庭に?
 ソリティアンの生徒が野生化したとしたら、その前にアタイが見逃さねえし、リオのカウンセリングである程度兆しもわかる。
 もちろん、先生達なんざ野生化しねえ。
 アタイらが目を光らせてっからだ。
 さて、校庭に出たアタイはどんなもんかと相手をまじまじと観てやった。
 頭が三、しっぽが六本の青い狼。
 やわらかそうな毛並みだし、妙に落ち着いて校庭の真ん中でおすわりしってけど、クレスをほねっこみたいにくわえてやがる。
「つがよ、なんで野生化ソリティアンの警報がならなかったんだ?」
「なったっての! アンタ、さっきの地震でビビって記憶トンだんじゃないの!?」
「あ、多分それ」
 えへへ、とアタイは無理やり笑った。
 ウソでも笑えば少しはラクになっからな。
 ベチンと叩かれて思わず腰が抜けた。
「やる気ないならさっさと生徒たちと帰って」
 うわっ、すっげ怖い顔してら。
 なんかもうこれ以上よらないだろってぐらい眉間がぐぐってなってる。
「ていうかむしろ帰れ! アタシとアイ様でやるから!」
「そうも言ってらんねえみてえだぞ」
 化物がこっちの方に駆け寄ってきた。
 アタイは慌てて窓から飛び出して、なんとか部屋ん中に飛び込むのだけは抑えられた。
「レインちゃん、やっぱすっげぇ……」
「あんなにのんびり屋なのに……」
「リオちんも見習いなよ。先生のくせに急にキレたりするの、よくない」
「うっせ! 見てないで早く帰る! アンタらで最後なんだから!」
 しぶしぶすごすごと帰った。
 ……わりぃな、リオ。
 いっつも憎まれ役でよ。
 でも知ってっからよ。
 心のどっかで一番生徒のコト、大切にしてんの。
 でなきゃカウンセラー兼保険医なんてやらねえだろ?
 まあ、アタイもそうなんだけどよ……!
「うるあ!!」
 わんころひっくり返して、なんかクレスが口から離れた。
 そのまま尻尾をぶっ刺して麻痺さしてやろうかって思ったけど、あらら、逆に何か流し込まれたぞ。
 無表情でナメクジみたいに地面にくたってしながら、アタイの方を観てた。
「私に構わず、早く土地神様の力を!」
 珍しい。すんげえ声張り上げてやんの。
「レイン、早く! 手遅れになる前に!」
 リオがようやくこっちに来て右腕につけた鉄の爪をワンコに向けてぶっ放した。
 ワイヤーがついてお手てを結んだ。
 リオ一人じゃ五秒ってとこか。
 何とか変身出来るナ。
「ライジング……」
 土地神様の力を得るために、アタイは地面に腕を突き立てた。
 そん時だ。
 ぴょーん!と、二階から誰かが飛び降りてきた。
 なんかこう、顔が猫のような虎のようなライオンのような。
 後から聴いたらハイエナのソリティアンだったか。
 そいつが飛び込んできて、アタイは思わず変身すんのをやめた。
「やめれ、ホナミ!」
「レイちゃん、私これでもレイちゃんの生徒だよ?」
 背中に乗っかって、爪をガリガリと立てる。
「バカいってねえで帰れ! おい、リオ! あいつ降ろせ!」
「知るかバーカ! こちとら手を塞ぐので精一杯だっての!」
「ったぐよお! んがっ!?」
「尻尾が……ウソでしょ……!」
「ホナミ、今助けっから……うぎぎ……!」
 あっ。
 ホナミが。
 アタイの生徒が。
 風船みたいに弾けた。
 ウソだ。
 こんな、こんなことって。
「うあああ!!」
 アタイもヤバい!
 締め付けられてるせいじゃない。
 毛先から、やたらめったらソリティアン細胞を流されてる。
 やべえよ、これやべえよ……。
 アタイもこのままじゃ……。
 そん時、バイクの音が聞こえた。
 おせえんだよ、アイさん……!
 それでも来てくれただけでも御の字だ……!
 バイクの音に怯んだのか、尻尾が緩んだ。
 アタイは思いっきり尻尾を破り捨てて、堅い土の上さ転がった。

 

 

「なあ、アイさん、なんでもっと、早く来てくれねかったんだ……」

 

 


 最初の一年は、そんなふうに思ってた。
 けれども次の一年は、どうして自分がホナミを止められなかったんだって、とても悩んだ。
 そしてここ一年は、もう悩まなくなった。
 シノのお陰だ。
 アイツが一所懸命、壊れちまった街とネガティブタイドを立て直してくれた。
 その姿についてって、考えがいろいろ変わった。
 だってな、アイさんは眠ったままだし、ホナミが生きてたトコで、どうせ去年起きた地震で生徒がほとんど死んじまったんだもん。
 そうさ、アホルルが起こした地震のせいで……。
「レインさん、大丈夫」
「んお、シノ……」
「お薬の補充です。今日から少し減らしてみましょう」
「わりぃな。こんなになったアタイを傍においてくれるなんてよ」
「こちらの台詞です。この街が、こうになってまでいてくださるんですから」
「なーもなーも。外はどうせ戦争の真っ最中だ。ここさえ守りきれるんなら 、アタイはそれでもいい」
 ほんと、もう外の世界はどうしようもねえ。
 ソリティアンじゃねえと生きていけねえ街になっちまったけど、それさえ無視すりゃだいぶマシだ。
 今日も近くで花火があがって、流れてくるのは個人レベルの生放送。
 どいつもこいつも楽しんでやがる。
 次に首が落ちるのは自分かもしんねえのに。
「戦争が終わったら、花を植える旅に出ましょう。レインさんの雷と、クレスちゃんの水があれば簡単です」
「だな。でも、その前にちゃんと捕まえねえとな、あいつら」
「ええ、この街にもう英雄は必要ありませんから」
 そうだ。
 あと必要なのは風。
 風がふけば、きっとつながる。
 あの日感じた津波のように。
 だから、絶対に連れ戻すからな、アイさん。



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初版:2014/12/08

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