…。
 ……。
 ………。
 いや、地響きからしてすごく大きいだろうなって思ってましたけど、まさかヴォルテールより大きいとは思わなかったです。
 見た目は大きくなった真っ黒いフリードですけれども、顔が凶悪です。どんなふうに凶悪かって?
 たぶん、見る人が全員不愉快になる保証はあります。
 なにより溶岩みたいにゴツゴツした皮膚なんか、迂闊に触れれば、焼き魚の隣にある大根並におろされてしましそうです。
「ど、どうしたらいいんですか!」
「全長30メートル……魔法生物と言えど、あそこまでの巨大さは希少価値があるよ、いや、ここが現実だったならば、だけどね」
 ボクの疑問なんて小さいこと、と言わんばかりに、アリオンさんは悠長に、この黒龍を見上げています。
「我々はともかく、大きさはデータの量に比例する。これだけの量のデータを隠蔽させた上で送り込めた前例は今までにないよ。というより、物理的に出来ない」
「どうして言い切れるんですか?」
「ほとんど独立しているんだ、他のネットワークと。強いて言えば外部から隔離されている。だから物理的に出来ない。出来たとしても、途中で感知されて遮断されるよ、私の友人たちの能力ならば」
「見落とした、ということは?」
「アバランチ・インジェクションが逃さない」
 空をピっと指差し、アリオンさんは言い切った。
「『彼女』はデバイスの中でも、実行力については極めて優秀だよ。なぜなら余計な思考を持たない。言われたことを言われたとおりに実践する。余計な行動や無駄な演算でネットワークや自身への負担をかけてもらいたくないもの。逆に言えば、『侵入者の感知を無視出来ない』」
「だったら」
 ボクはピンと来た。
 それならば、この大怪獣は内部からの贈り物ではないか、と。
 けれどもそれは、アリオンさんがすでに考えていたようで、オマケに見透かしたように、こちらを見ながらニコやかに語った。
「仮に内部のものだとしたら、自分の人生を明け渡すに等しい行為をしている、と理解をしていない。侵入出来る腕を持つ者だとしたら、そのぐらいわかる。バレたら免職じゃ済まないもの。ましてや私は、そんな愚行をする隊員に、それだけじゃ済ますつもりはない。それこそスカリエッティと同じ檻に入ってもらうくらいのお土産をくれてやるよ」
 いずれにしても。
 アリオンさんは言葉を続けた。
「今日はエリオさんの社会科見学だし、一つ派手にやろう」
 そう言い、アリオンさんは掌を広げた。
 ていうかこの大怪獣、さっきから全然動かないんだけど、なんなの?

 GYAAUUUUOO!!!!!

「ぎゃっ」
 突然の咆哮に鼓膜が破れるかと思いました。
「どうやらアバランチの捕獲トラップが一つ、破られたようだね」
 ご説明、ありがとうございます。
「ていうか捕獲している最中に倒せば良かったんじゃないでしょうか!?」
「いやいや、エリオさん。大事なのは相手の手を知ることだよ」
 そう言うアリオンさんの手には、なんだかすごく大きくてごつくて、真っ青な銃がありました。ボクぐらいの身長がありそうです。
 ええと、観た感じ、グリップを稼働させて剣にもなるみたいで……なんだろこれ、不思議な銃です。
「先程のバインドの解放の仕方から、どうやら力づくが得意なようだ。龍の形をしているから、おそらく突破型。猪突猛進と言うよりも、周囲破壊型、かな? 人に例えれば、意図せず他人を巻き込むタイプだね」
 なんだか難しいことを言っていますが、近づかない方が得策、ということだけは伝わりました。
「エリオさん。私が牽制をするから背後から背骨を狙ってくれないかな? どんなものにでも芯はあるから、その芯を突けば一気に崩れる。けれどもそこが弱点だと自認しているならば、何か仕掛けられているかもしれないから気をつけておくれよ」
 などと悠長に言われたけれども、この間に大怪獣は踏みつけてきたり、口から熱線を吐いて来たりなど、やりたい放題でボクたちに攻撃を仕掛けてくる。
 おまけに避けても風圧や熱とか、質量に見合った衝撃がくるもんだから、多少はダメージとしてこちらにやってきた。
「うぇ……」
「エリオさん、気をつけて。急激なデータの波は自分の脳に大きく影響してくる。致死量のダメージを受ければ……残念ながら、ここから二度と出られることはないよ?」
「そういう大事なことは先に言ってください!」
 さすがに殺意を覚えました。
「私はエリオさんと一緒に眠るなら別に構わないけれども、ああ、でもそれじゃあキャロちゃんが可哀そうだ」
 自由だ、この人の思考、まるで自由。
 巨大な怪獣を前にして冗談の一つもラクに言えるだなんて、どこからそんな余裕が……あっ。
 忘れてた。
 ここはアバランチ・インジェクション。
 地の利は圧倒的にこっちにあるんだ。
「アリオンさん! 回りこみます!」
「オーライ、エリオさん! まずは大きいの、ぶち込むよ! アバランチ・インジェクション、最初っからフルドライブだ!」
『リンカー・プロトコル、制限解除。第二ホスト経由で古代ベルカ演算を解放しています』
「さすが! 早速いくよ! シュトゥルム・ファルケン、セット!」
 ……なんだかどっかで聞いたことあるような名前の技なんですけれども、とりあえず凄い威力だってことは分かりました。
 太い光線が怪獣の頭を顎から貫いたんです。すごく痛そう。
 ていうか、ていうか牽制? これが牽制レベルなら、ボクはどれだけ残虐行為をしなければいけないのでしょう。
 完全に命狙ってますよね、コレ、現実世界ならば。
 怪獣が仰け反ったのを見て、ボクはすかさず怪獣の後ろへ回り込み、ストラーダを直上へ立てました。
 そうです、ストラーダのブーストを使って背骨の真上に行き、一気に縦に切り裂いていこうと思ったのです。
「ストラーダ!」
『Jawhol!』
 まるで予見していたかのように、ストラーダは第二形態になり、ボクを空高く飛ばしてくれました。
 そして、直上にたどり着き、真っ逆さまになって切っ先を地上に向けて、更に推進力を上げます。
 狙いは背骨。
 大丈夫、これだけの勢いがあれば、一撃で決められる!
 そう信じ、切っ先は怪獣の皮膚へたどり着きました。
 けれども触れただけで、そこから先へは進めません。
 それどころか、ボク自身が動けません。
 何事かと思い、自分の身を見回してみました。
 足をつかみ、突撃を止める何かが見えました。
 それがとてつもなく、見覚えのある人でした
「フェイトさん!?」
「……フフんッ」
 いや、間違いなくフェイトさんじゃない。こんな下品な笑い方しないし。
 なにより……あの綺麗なブロンドの髪が、ありえないくらい青い。
『エリオさん、君の正面に離脱だ!』
 アリオンさんの声が念話で届く。
 ボクは足を掴むウソフェイトさんの腕をストラーダの横腹で払いのけ、そのまま向いている正面へ飛んだ。
 アリオンさんも持っている銃を推進にして直線に飛んでいる。
 凄いスピードだ。ボクより早い。しかも、いつの間にか、並んだ。
「見てごらん、エリオさん」
 そう言い、後ろを指差す。
 ボクはありえない光景を観た。
 見えたのは大量の、隊長陣。
 真っ黒ななのはさんに、さっきの真っ青なフェイトさん、そして赤みが増したシグナム副隊長に、妙に黄色いヴィータ副隊長。
 それが、なんかもう、数えるのも嫌になるくらいいた。
「あれだけの戦力、本物だったら世界がたくさん支配できるね」
 アリオンさんがクスクスと、他人事のように笑っていた。
「笑ってる場合ですか!」
 思わず指摘。
 けれどアリオンさんは笑みを止めない。
「いやいや、これでハッキリとしたんだ、内部の犯行だっていうことが。何せアレだけの隊長陣の擬似モデルを揃えられるだなんて、六課の中でしかありえない。敢えて部隊長を出さないことで『完全に知らないぞ』と思わせているのも面白いね、うん。正直、六課でも滅多に一緒にいることがないシグナムさんとなのはさんが一緒にいる時点で、ひどく違和感があるよ」
「けれどもいったい、どこからあんなのが」
 根本的な疑問を、ボクは呈した。
 そうだ、いつのまにあれだけの戦力がポンと出てきたのか、極めて疑問だ。
 けれどもアリオンさんはあっさり言い放つ。
「乗り物に乗ってきたんだよ、一つのデータとして」
「まさか」
 言われてピンと来た。
 そしてそれを確かめるために、もう一度、後ろを見る。
 やっぱりだ。
 大怪獣がいない。
「古典的なやり方だよ。けれどもここで解放してしまったら、ここから先の突破は困難だろうね……でもアレだけの強力なデータが……『再現されていれば』、このSTブロックはオーバーヒートして使い物にならなくなるよ。その後に出来る穴から別働隊が二の丸に侵入されたら、さすがに始末書……あっ」
 と、アリオンさんが言葉を止めた直後、ボクの真上に桜色の直線魔法が飛んできた。
 かすっただけなのに、その衝撃はボクなんかじゃ量り知れず、飛行バランスを大きく崩して、下を飛んでいたアリオンさんのお世話になる事になった。
「これだけ小さいのは逆に悪くない」
 落下しながらなにいってるんですか。
「このまま着地するよ、しっかり捕まって」
 そう言い、反転して、隊長軍団のいる方に銃を向ける。
「私の世界で私に勝てると、思わないでおくれよ」
 そう言った声は、実に余裕があった。
『マスター・アリオン、スターライトブレイカーの再現は、STブロックでは耐えられません』
「誰がスターライトブレイカーを撃つといったんだい? 私が一番大好きなアレだよ、アバランチ・インジェクション!」
『了解しました、ウルティマ・スレッティングにて補助します』
「行くよ…エリオくん、これは勉強になるよ、君が最も慕う人から生まれた、極悪な魔法の一つ」
 すみません、ボクの身近でトンデモ魔法を使う人って、あの人しかいないんですが。
「フォトンランサー……」
 ええ、よく知ってます。フェイトさんの技です。
「ジェノサイドシフト!」
 それ、知らない!知らない!
 なんて怯えている間に、アリオンさんの周辺から大量の黄色い魔力スフィアが現れて、そこから大量のフォトンランサーが発射された。
 それは大きく拡散し、隊長軍団へ飛び込むと無数の赤い火花を散らしていました。
「半数は減らせたみたいだね……んう?」
 アリオンさんの高度を維持していた力が、不意に切れたみたいです。
「どうやら思っていたよりも消費していたみたいだね」
 ヒュルヒュルと落下が始まりました。もう落下なんて感じられないくらい、完全に無重力です。
「このまま地面に落ちたら?」
「自由落下のデータと地表のデータが私たちのデータと衝突。つまりは現実と同じ結果だよ」
 他人事みたいな言い方だった。
 ボクはストラーダを逆手にし、地上に切っ先を向けた。
「ストラーダ!ジェット全開!」
『Jawhol!』
 間に合えば、いいんだけど……正直、キツい……!
「アバランチ、ストラーダさんの補助を……」
『クロックの限界まで実行します。警告として、しばらくサポートができなくなります。それともう一つ、クーさんよりですが、念のため地表のデータ密度を下げてみます、とのことです』
「構わないよ、修正も彼女に任せる」
『了解』
 おぶっ、あ、あれっ、急にストラーダのコントロールがラクになった。
 そして、地上に近づくにつれて、落下がゆっくり、じっくりと、なる。
 気がつけば、アリオンさんを抱えて着地していた。
「初めての共同作業は成功のようだね」
「まだ終わってないと思います」
 このとき、アリオンさんの悠長な冗談を理解している暇はなかった。
 なにせまだ……西の、西日の方に、まだいるのだから。
 データだけとはいえ、あの隊長軍団が……。
 うわあ、もう考えただけでゾッとする。
「内部に敵がいるなら……さすがに表のみんなと対応策を考えないと……」
 大きく息をついて、アリオンさんは目をつぶった。
 そして、安らかな寝息を……って、寝ないでっ、寝ないでくださぃいいい!
 けれども起きることはなく、ボクはアリオンさんを抱えたまま、ただ空を見つめることしか出来なかった。
「大丈夫、結局はデータだもの、あの隊長たちも、ボク自身も」
 そう言い聞かせ、ボクは赤くなった太陽を睨みつけた。




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初:2010/02/19 東牙

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