その後、ボクは戦いました。頼れる人の電池が切れてしまった以上、ボクが頑張るしかない、と勝手に暴走した結果です。
 なんだかもうガムシャラになって、その流れでわからなくなっていましたが、とにかくニセ隊長軍団を自分の出来る全力でたたき潰していきました。
 もう、一瞬でも隙を見せたらなのはさん砲ががっつりくるんで、正直、気は抜けませんでした。
 最後の最後で残ったのは真っ黒な八神部隊長でした。
 ボクは持てる力の全てを一撃に込めて……。

 ごめんなさい。ウソです。

 ホントは突貫したはいいんですけど、やたら広大な草原に場所が切り替わって、何故か隊長軍団はいなくなってて、代わりにいたのは、あの青いフェイトさん……それも映像で見たことのある、小さい頃のフェイトさんでした。
 アリオンさんのジェノサイドシフトが効いたのでしょうか。
 けれども青フェイトさんは余裕と挑発が黄金比率で混じり合ったような目をしていました。
「さすがはアリオンだと思ったよ。あの一撃で論理プログラムの半分は削られたね。慌てて再構築したよ、ボクが使い易いこの体で」
「あなたは一体誰なんですか」
 絶対答えてくれるわけがない問いを、ボクはしていた。
「アリオンが答えを半分出しているだろう? あと、あまり質問をしないで欲しいな、このモデル体は少し頭が緩いから、たまに素直に答えてしまう……フェイト隊長の悪い部分の塊みたいなものだからね」
 そうやってバラしている時点で、ほんのり頭が緩い気はします。
 けれども油断は出来ません。
 この世界の仕組みに慣れてきたボクは、あの青いフェイトさんの魔力の高さを感じ取れてしまいました。
 データ量=魔力とするならば、こうした仮想空間内で簡単に、純粋に強くなれる……。
 となると、あとはそれの使い方が上手いかどうか……だったらば。
「誰であろうとやらなきゃいけないことは決まってますし、負ける気はしません。どれだけ擬似の魔力が強くても、使い方がわからなきゃ意味がない!」
「そんなことはわかってるよ、戦いは五つの次元でするものだからね」
「五つの、次元?」
 あっさりと言った言葉に引っ掛かり、ボクは思考が止まった。
 一瞬だけ、酷い既視感があった。
 けれどもそれはすぐに果てて消えた。
 何せ青いフェイトさんが、本物のフェイトさんがしないような醜悪な笑顔でこちらを見ているからだ。
 腹が立つ、とにかく腹が立つ。
 もう一瞬足りとも、勝手な仕草をさせたくない。
 そう思うが早いか……ボクはとっくに飛び出していた。
 けれども横からのつま先蹴りで、いとも簡単に弾かれたあげく…避けられてしまった。
 って、嘘だ!
 けられたのは……蹴られたのはストラーダだけなのに、どうしてこんなに腕と胸が痛いんだよ!
「怒った?怒るよね、尊敬する人をこんな風に扱われるんじゃあ……バルニフィカス!でんじんしょおおお!」
 うえ!?
 もう、何が起こったかわからない。そもそもアイツが何を言ってるかわからない。
 けれども一つ確かなことがある。
 これは憎しみだ。
 今、ボクをつき動かしているのは、憎しみだ。
 わかっている、わかっているはずなのに、体が理性の言う事を聞いてくれない。
 あのバカをキっと睨みつけて、ガムシャラに技を出そうとしている。
 いや、もう技とは言えない。
 単に魔力の塊、力の塊、暴力を振るっているだけだ。
 けれどもそれを受け止められ、かわされ、挙句の果てには……。
「こんのォオオオ!」
「こんのぉおー!」
 真似までされているし!
 悔しいけれど、アイツの掌の上で踊らされている感覚だ。
 おまけにこちらにダメージはまるでない。ただ気持ちだけが、コイツを徹底的にぶっ飛ばしてやりたい、という想いだけが募っていく。
「ったくもう、シグナムの姐御とかから教え、受けてるんだろ? なのにこのテイタラク、最悪だ」
「うるさい!」
 フェイトさんの声で汚い言葉吐くな、ド外道!
 と叫びたかったけれど、理性がそこをどうにか抑えてくれた。
 けれどもなんだろ、この気持ちのゆらぎ。まるで自分が自分じゃないような感じ。
 すっごく、気持ち悪い。
『エリオさん、そいつの手に乗せられないで!』
 と、突然、ボクの胸を貫く一つの声。
 ボクは思わず、その声の主の名前を叫んだ。
「アリオンさん!」
 ブン…という空気をさく音とともに、アリオンさんは現れた。
「すまない、再ログインに時間がかかった。たぶん、『彼』のせいだろうけれど」
「『彼』?」
 ボクは首をかしげた。
 別にどこにいるんだろう、とかそういうことじゃない。
 ただ、アリオンさんの指を差す先にいるのが……あの青フェイトさんだからだ。
「いや、想定はしていたけれどね、まさかこんなに大胆なことをするとは思わなかったよ、あの性格からして」
 どうやら知り合いみたいです。
「やるときはやるし、やらないときはやらないよ、ボクは」
「ボクだなんて白々しい。普段は『オレ』とか『オレァ』とか、ワイルド気取っているくせに」
「このモデル体に合わせているつもりなんだけどな」
 ため息をつき、バルディッシュもどきをこっちに向ける。
「こちとらソコの少年に未熟さを思い知らせてこいって命令受けてんだよ。邪魔すんな、アリオン」
「どこの誰からなんだい? 感情ではなく順序立てて話そうよ」
「お互い、そんなプロセス必要な関係じゃねえだろ」
 やめて、フェイトさんの声でそんな野暮ったい喋り方やめて。
「私は結果から入る考え方が嫌いなんだよ、知っているだろう? そもそもそういう点は兄さんも嫌いなハズだし、互いに合致している。結果ありきの証明は、結果を求めるための証明になり、その証明に合わせるためなら思考にズレや既知出来ない矛盾が生まれて正確な分析は出来ない。お互い、いわゆる『知ったかぶりを嫌悪する感情』について話しあった時、そういう話になったじゃないか」
 ああ、今なんか凄く良いことを言っているような気がする……え?兄さん?
 あの、確かアリオンさんより背の低い、お兄さん?
「妹なら察しろって。『どこの誰だか言えない状況』だってコトに」
 確定した。なんか、騙されているんじゃないかって思うぐらい、一瞬で確定した。
「そう言ってくれるならば、いたしかたないと答えられるけれども」
 アリオンさんの目つきが、すっっっごく怖くなった。
「何も私のところへの社会科見学で突っかかることはないじゃないかな?」
「お前の管理するシステムのテストも兼ねてたんだけど、なにやってもココのトラップエリアに引き込まれて監査終了しちゃったから、ついでにシグナム副隊長に言われてたことを試すことにした、気分も乗ってたし」
「だから気分で物事を進めないでおくれといつも言ってるじゃないか! いや、百歩譲って私のところにしわ寄せが来るようなことをしないでくれ! ていうか、やはりそのマテリアル使ってるせいかい? 今、ポロッと黒幕が零れたよ?」
「うるさぁあーい! とにかく少年とタイマン! でなきゃこのオレ愛用の仮想体に詰め込んだプログラム全部、放出すっぞ!」
「それは……ゴミデータが散らかりすぎて面倒だ。復旧している間に侵入者が発生しても困る。エリオさん、お願いできるかな? 直々に消してやりたいところだけれど、アバランチの補助をして別の角度からくる侵入者の対応をしなければならないから、さ」
 もうやだこの兄妹。
 けれども……今見せられているフェイトさんばりの困ったような笑顔じゃ、絶対断れません。
 簡単に断れる性格じゃないってのは自負してますけど、これは並大抵の人じゃ断れないと思うんです。
 なにより……。
 やっぱりあのフェイトさん、嫌いなんで、ボクの手でぶっ飛ばしたいです。
「兄さん、少しだけ時間をくれないかな? 兄さんは彼のことをよく知っているだろうから、それ相応のアドバイスをしたいんだ」
「別にいいよ。しっかり少年自身で戦略を立てるってんなら」
 やっぱりあの物言い、フェイトさんの声でやられると腹が立つ。
「エリオさん、耳を借りるよ」
 そう言い、アリオンさんは顔をボクの横に近づけた…って近い近い近い近い。
「自覚があるのかないのか知らないけれど、兄さんはどうも自身のペースに乗せるのが上手いんだ。乗せられて見事に丸裸にされた子もフォワード陣の中にいる。彼女の場合は操られているような感じだったね。ひょっとしたら、そういう魔力演算を組み込んでいるのかもしれない。ただ、フェイトさんの擬似体をあそこまで改変させてしまう育て方……ああ、私たちの用語で、システム内で動く体と、それは自分が組んだ仮想魔力とかを与えて自分の使い易いように構築していくんだけれども……そもそも私たちのように、自分の姿から変わることは少ないんだけどね……」
 何を言ってるのか今ひとつわかりませんが、吐息が耳に当たってドキドキします。
「それらからして、とにかく影響を受けないように気を付けた方がいいことは確かだよ」
 それが結論ですね、わかりました。
「ありがとうございます」
 ボクはお礼をして、改めて青フェイトさん(♂)の方に向き直った。
 その時だった。
 隣にいたはずのアリオンさんが、突然ボクの後ろにまわり、そして……右の首筋に、唇を当ててきた!?
「私のところの種族のおまじないだよ。左側は、『ご武運を』、だ」
 いや、今、右側でしたけれど。
「右は『無事に帰って一緒にでかけよう』だ」
 長い!ていうか両方セットで初めて効果ありますよね、そのおまじない。
「今、エリオさんは、やるならどうして左にしないのか、と思っているだろうね」
 ああ、凄く近い。
 近いので、思わず頷いてしまいました。
「武運は必要ないよ。彼相手に普段どおりのエリオさんを出せるならば」
 だといいんですけれど。
「この際、唇も頂いておきたいところだけれど、それは隊内のファンクラブから苦情が来るからやめておくよ」
 そんなんあるんですか。
「準備、出来たみたいだね」
 青フェイトさん(♂)がその姿に見合った言葉遣いで言う。
 ああ、そうですか、そっちもその役を演じきるために、気持ち作ってたんですね。
 ボクは多少、周囲の人達の理不尽さ(八神部隊長とシグナムさん含む)に呆れつつも、やることにした。
 タイマンって、勝負を。
 トン、とアリオンさんに肩を優しく叩かれて、急に胸の内が穏やかになった時、ボクは思った。
 ああ、自分って、自分が思っている以上に単純なのかな、って。



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初:2010/02/27 東牙
第二版:2010/05/05

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