あの青いフェイトさんに、ボクは立ち向かいました。
 ストラーダを引っさげて、気持ちと力を全て込めて立ち向か……。
「でぇええんじんしょぉおおお!」
 とにかく突破口を見出そうと……。
「でぇええんじんしょぉおおお!」
 せめて一発顔面に紫電一閃を……!
「でぇええんじんしょぉおおお!」
 あ、あいつマキシマムいやらしい!さっきからずっと、こっちの立ち上がりを狙って遠距離魔法ばっか!
 こ、こうなったら立ち上がりつつ横に転がってシンカー気味に内角低めから太ももを……!
「しゅらんげばいぜぇええん!」
 いやいやいやいやいや!
 待ぁああってください!!
 それはおかしい!おかしいでしょう!だってシグナム副隊長の技だもの!
 あのバルディッシュっぽいものから出てる黄色い光…本来は刃なんですけど、それが鞭状になって、青フェイトさんの身を守るように激しく渦を巻いている。
 それどころか個体じゃないことを良いことに、分散してこちらを四方から的確に襲いかかってくるぅうう!
「ビックリした?ねえ、ビックリした? 練り上げた自分の素体にフェイトさんの戦闘データと姐さんの技を無理やりねじ込んだ結果がこれだよ! いろいろやりすぎてオリジナルの色からだいぶ変わったけれど、これはこれですごいだろう! カッコいいだろォー!」
 くそう、なんだよ!あのわざとらしい棒読みな感じ。まっすますイライラしてくる!
 ……じゃない! これは罠だ、技だ、こっちの動きを制限するための手段だ!
 感情的になっちゃ相手に動きが見え見えだ!
「のせられて、たまるか!」
「そうだよ、エリオさん。彼の言動に乗せられちゃいけない。確かにシグナムさんの技を組み込んでいるようだけれど、それだけのデメリットが確実に……」
「よっせい!」
「ぶわっ!」
 ものすごい魔法圧が来て動けなくなんたんですけれども。
 何か超必殺技の予感がします。
「らぁあああいじんめっさつぅううううううううううううううううううううう……」
 ああ、そのため具合は物凄く良くないです。
 たぶん、ボクごとこの空間を破壊する勢いです。
 ていうか身内の作ったエリアに容赦ないです!
 私怨?私怨ですか?兄妹の愛憎劇ですか!
 そんなものに巻き込まれておっちぬだなんて……!
「そんなの、ゴメンだぁああああ!」
「うぇ!?」
 あ、動ける。
 と、思った時には、ボクはもう青フェイトさんの懐に飛び込んでいました。
 お互いに視線が合い……たぶん、同じ表情でしょうね……目が点になってます。
 ちょっと自分が信じられない。
 なんて思っているうちに、例の一撃をやっちゃいました。
「紫電一せぇええええん!」
 ええ、思わず顔面を殴打してやりました。
 もう、腰を深く落として、まっすぐ斜め上に。
 なんか、青いのは「そんぬぁー!」とかなんとか言って宙を舞ってますけど、間違いなく鼻血は出てました。
 って、スゴイですね、この電脳空間。よく見たらボクの方も、結構ボロボロだし……。
「ブラッディアロー!」
「うあっ!」
 うまいこと鼻血飛ばしてきやがりました。カッコよくいっても鼻血は鼻血でした。
 なので難なく避けました。
 代わりにストラーダの側面を使って思いっきり振り抜いておきました。
 藁人形のように三メートルほど飛んで、大木にぶつかりました。
「いやぁ、親子は似るものだね」
 アリオンさんがほくそ笑んでなんか言ってます。
「くそぉ……まさか少年がここまで情熱的だったなんて思わなかったよォ……」
 青いツインテールが雑草の上で横たわりながら、涙ぐんでます。
 オリジナルのフェイトさんならたぶん、動揺してたんでしょうけれど、残念ながら殺意以上の嫌悪感がこんこんと湧いてきます。
「どうしたんだい、兄さん。普段ならイメージだけで戦略を決めないのに……ああ、デメリットはソレか……」
「うん……ちょっと頭の回転、悪いよ、やっぱり……うまく自分を反映出来ない……ぐすん」
 すごくかわいこぶってるけど、男なんですよね、中身。なぜでしょう。つま先で肋骨を蹴ってやりたい。
「ねえ、少年……」
「エリオです」
 急に優しい感じで声をかけられたので、ボクはムッとしながら答えた。
「今回はたまたま、ボクが想定していた以外の感情のお陰で勝てたけれど、それだけに頼ったらいけない。それに飲まれたら、行き着く先は……そう、自身にとっては穏やかな、けれども誰もいない闇だよ」
「無様な姿と病気みたいな言葉で上手く締めようとしないでおくれよ、兄さん」
 あきれ果てたように、けれどもどことなく愛嬌を込めて、アリオンさんは笑っていた。
 なんだかなし崩し的に心温まる終りを迎えそうです。
 とっても釈然としませんけれど……。
「ああ、別にボクを嫌いになってていいよ。なにせそういう仕事なんだから、とっても慣れてる」
 ずきっ。
 その言葉を思い返すと、ボクは浅はかだったんじゃないかな、って感じます。
 だから、こう言い返していました。
「そんな事言って、仕事のせいにしないでください。他にやりよう、あるじゃないですか?」
「ん……♪」
 アリオンさんが、感心そうに声を出していた。
 ウソフェイトさんも、目をパチクリさせている。
 くそう、妙に可愛いけど、腹立たしい。
 きっとフェイトさんがあと10年若かったら、いや、その、ごめんなさい、なんでもないです。
「す、すみません、なんか、生意気なこと言っちゃって」
 いろんな気持ちを込めて、ボクはそう言っていた。
「いいや、少年。少年の言うとおりだよ、ちょっと自分に諦め入ってたのかも、ね」
 そう言った青フェイトさんは……青空が似合うくらい、清々しい笑顔をしていた。
「仕事をしにきたつもりが、逆に学ばされちゃったな……でも、新鮮なきもちだ、ありがと、少年。さて、そろそろ本チャンの仕事の準備しなきゃね……」
 小さくあくびをすると、青フェイトさんは徐々に姿が薄れて……つま先から欠片になって……。
「アリオン、ちょっとお騒がせしたね。非公式な通信だと偽装しようが何しようが、あらゆる手段を用いてもここに誘導される仕組みになっているし、少年はボクやシグナムさんが思っていた以上に成長しているみたいだ。査察官さんからの本当の指示がないかぎり、しばらくおとなしくしているよ。しばらくは……プラグアウトだ、バルニフィカス……もといヤタミヅチ」
「そんな兄さんへ一ついいお知らせだ」
「なに?アリオン」
「なのはさんに報告させてもらったよ。兄さんに”フェイトさんから頼まれた“エリオさんへの講義を難癖つけて必要以上に邪魔された、と。笑顔で『しょうがないよ、彼なりに必死なんでしょ?』とは言ってくれたけど、私には青筋が見えていたね。そろそろそちらにつくんじゃないかな?」
「!?」
 青フェイトさんの目が、今にも飛び出そうなくらい開いた。
「ちょ、待って!せっかくだからほとぼり冷めるまで一緒に勉強しよう! そうだ、少年!今度はベースボールなんてどうだい?さっきのスイング、少年ならきっと良いアベレージヒッターになれると思うんだ! それからそれから、えーと、えーと…うきああ!」
 あ、爆散した。
『マスター・アリオン、指示の通り、不審な挙動をしていたプログラムの駆除、絶妙のタイミングで完了しました。私自身も通常モードに移行します。良い見学ツアーをナビゲート致します』
「ありがとう、アバランチ。彼は恐らく元の世界ではもっと痛い目にあっているだろうよ、きっと。いや、胸がスッとした! 積年の恨みから一気に解き放たれた感じだよ。私の中の悪魔は、どうやら今まで彼に好き放題されてきたのが気に食わなかったみたいだ」
 気のせいか、アリオンさんの肌がツヤツヤしているように見えます。
 ……?
 そう言えば。
「そう言えばなんだか、ボクも胸のモヤモヤがすっきりした気がします」
「そうか……そうだとしたら、ひょっとしてアレかな。普段からかの人に世話をかけられていて、それが少し鬱陶しくなったのが、仮想とは言えブン殴って、吹っ切れたんじゃないかな?」 
「いやいや、まさか……」
 まさかボクがフェイトさんに対して反抗期?
 ありえませんし、やりえません。
 と、言いたかったところですが……ボクは敢えて口に止めました。
 そして、こう返しました。
「だとしたら、ホントのフェイトさんに迷惑かけなくて済みそうです」
 大きな大きな、息が漏れた。
 ため息なんかじゃない、暖かい息は現実じゃないのに何よりも穏やかだった。

 ◇

 ◇

 ◇

 それから数日後、フェイトさんとアリオンさんと一緒に隊舎で夕食を取れるタイミングがあり(全員ペペロンチーノってどんな偶然なんですか)、さっそくアリオンさんがやってくれました。
 そうです、先日の社会科見学について全てをブチまけたんです。
「ということがありましてね、フェイトさん。いやあ、なかなか見どころある育ち方をしてらっしゃいます」
 薄い語り口調ながら、飄々とバラしやがってくれました。
「アリオンさん、あれはあなたのお兄さんの挑発が……!」
 ボクは思わず反論しました。言い訳だと思われても良いです。悪いのは愉快犯ですから。
「そうなんだ……、エリオも立派なロックンローラーに……これからはエーちゃんって呼ぶから、本気の反抗期だけはやめて……ね……?」
 そんなうさぎとチワワの愛くるしさを足してボク向けに魔改造したような瞳で見ないでください。
 助けてください、誰か助けて。
 なんて思っていたら、早速やってきました。
「おう、美女二人に追い詰められてるなぁ」
 なんか、六課らしくない男性的な声……ていうか、聞き覚えのない声が聞こえてきました。
 更にどすん、という、どっしりとした重みが肩に乗りました。
 たぶん、手を肩に乗せられたんだと思います。
 整備班の人がよくまとっている鉄が焼き切れたような匂いがしたんで、一瞬、ヴァイスさんの悪戯かなと思ったんですけど……ヴァイスさんはもうちょいベタついてきます。こっちが鳥肌立つぐらい。
 それどころか、あまりにも真上から力を加えられているんで、ついつい上を向いてしまいました。
 六課の男性にしては妙にやさぐれたというか、野暮ったいというか……ただ、妙に眠そうな眼をした……赤髪の男の人でした。
「アリオン、例のログ、どこにしまった? 査察官に提出するやつ」
「ああ、それならクーさんに……」
「おう、サンキュ。そんじゃ、引き続き楽しめ、少年」
 そう言って、男の人はスタスタと去っていきました。
 …んえ?
 最後の一言、すっごく引っかかるんですけど。
「んゆ……、相変わらずだけれど最後まで話を聞いて欲しいなァ、兄さんには」
 ええと、アリオンさんの兄さんで、ボクのことを少年と呼ぶ人……って、あの人しかいませんよね。
 ですよね、予想はしてましたけど、もうちょっとこう、チキューの言葉で言うところの草食系?その辺勝手にイメージしてたんですけど、さっきの人は、ほら、むしろこう、密林の中で打ち落とした極彩色の鳥を丸焼きにして食べながら悠々自適に暮らしていそうな感じだったんで……。
 ボクは若干俯き加減で、フェイトさんの方をちらりと観た。
「どうしたの?」
 不思議そうにこちらを見るフェイトさん。
 そのありふれているのに眩しい表情と、先日の青いフェイトさんの笑顔が重なる。
「いえ、あと十年早く地球に生まれてたらな、って……」
 本音がぽろりとこぼれてしまった。
「なにいってるの。ひょっとしてアリオンの性格、伝染った?」
 照れたように笑ったフェイトさんの顔は、それはまるで朝日のような輝きとぬくもりがありました。
「……だとしたらフェイトさん、この後二人で夜の街へ飛び出してもよろしいでしょうか?」
「いや、それはさすがに……」
 急な困るフェイトさん。
 僕はすかさず言った。
「ごちそうさまでした!お先に失礼します!」
 早口でそう言い、ボクは空いた皿を手にして席を立ちました。
 ちょっと鳥肌立ちましたけど、話がこれ以上こじれないようにするための処置です、我慢ガマン。
「そう言わずに、ほら、二次元だと思ってもらえれば問題ないよ」
 意外にもアリオンさんが追いかけてきました。
 けっこー早いです。追い抜きざまに皿を奪ったかと思うと、そのまま返却口に置き、ボクの肩に手を回して……ああ! いつの間にかリードされてしまいました!
「エリオ!キスは、キスはダメだからね!」
 なんだからフェイトさんの悲痛な叫びが聞こえてきました。
 夢であって欲しいんですけど、夢じゃないんですよね、コレ。
「キス以外ならいいんですね」
 あの眠そうな目をしていたアリオンさんが、鋭い瞳でニヤリと笑った。
 それを観たフェイトさんは……彫刻のように硬直していた。
「親バカも少しは冷めるだろうね、きっと」
 分隊長相手だというのに臆することなく……と言うよりも、何も気にすることないのだろう。
 アリオンさんはボクの手を引き、きれいなリズムを足音で刻んでいった。

 ◇

 ◇

 ◇

 やがて辿り着いたのは、隊舎の屋根の上だった。奇妙な位置にあるアリオンさんの部屋(あまり部屋に戻らない理由の一つらしい)から直接出れるらしく、住人のアリオンさんにとっては出るのも入るのも自由だとか。
 そこに連れてこられるのは特に問題はないのだけれど、憂慮しているのは嵐の前触れじみたひどい風の中と、夜でも分かるくらい分厚い雲の下、なにより湿っている空気から、まもなく雨が降るのではないか、と感じることだ。
 それらをアリオンさんは、頼んでもないのにさらりと言い換えて見せる。
「水と風のささやかなセッション、実にいい香りだよ、うん」
 その言葉を頼りにして、ボクは大きく深呼吸をした。
 けれども鼻や肺を満たした感覚は湿った空気程度でしかなかった。
「んう……、やはり不思議そうな顔をしている」
 そんな餌をねだるリスみたいな顔で見下ろされても困ります。
 ボクは顔を上げて、曇天を見つめた。
 普通、こういう時って、星空見つめて色々語ると思うんです。
 なのにこんな天気で繰り出すなんて……。
「感じようと思えば、なんだって感じられるんだよ、エリオさん」
 そう言い、後ろから抱きついてきた(!)。
 あ、意外と胸大きかったんですね、白衣越しだからわからなかったです。
「エリオさんの成長を、私は陰ながら応援しているよ」
 とても優しい声、でした。
 それは一回しか言われていないのに、耳元で何度も繰り返されました。
 他意が全くない、純粋な言葉。
 それが身に染み入ったとき、ようやく感じました。
 風の持つ香りと、それにまぎれた水の音を。
「…ありがとうございます」
 造作なく言えた言葉は、もうこれしかなかった。
 あとはただ、感じるがままに、時を重ねることにした。




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初:2010/03/12 東牙
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