アリオンさんはこう言った。
 シグナムさんごと斬るしかない。すなわち、消すしか無い、と。
 けれども、それは今のあたしがいなかった場合のケース。
 だから私は言った。
「あるよ」と。
 そして、宣言した。
「あたしがその悪意を飲み込む」
 そして王様に託された本を握りしめる。
「戦闘機人のあたしでも、王様と融合したあたしならば、やれる!」
『闇の王の名の下に爵位をくれてやる! 蒼黒の騎士、セイン、唱えよ!』
「おうよ!」
 こういうの一度、言ってみたかったんだよね!
「行くぜ、王様! 光も闇もこの身に刻み、己が矜持で道を拓く!砕け得ぬ闇、セットアァアアアップ!」
 ぐいん、と体が仰け反るのを感じる。
 王様は言っていた。
 ただの騎士甲冑の装着ではない、闇に戒められるようにまとう力だ。
 体が耐えられなければこの身が砕ける。
 心が耐えられなければ頭が壊れる。
 けれども体は機械の体だ。
 そして心は王様と共にある。
 もちろん、それだけじゃねえ。
 闇の悪意に飲まれた騎士シグナムを助けるため。
 レヴィを支えるフェイトお嬢様を助けるため。
 なにより。
 王様、レヴィ、そして星光のマテリアル達を悪意から救い出すため。
 黒い水柱がそこかしこで巻き起こる。シンプルな公園だってのにまるで新しい騎士の誕生を祝っているみたいな勢いだ。
 ていうか、どうやら闇の力でディープダイバーが暴走してるみたいだ。
『それらを一カ所に集めよ』
 王様があたしの中で命じる。
 闇の書を高く掲げ、あたしは言った。
「変わるぜ、あたし!」
 瞬間、竜巻のような水柱があたしを中心にして生まれた。
 それはやがて闇の力と一つになり、青黒い騎士甲冑をあたしに与えた。
「どぉうりゃあい!」
 渾身のパンチを水流にぶつける。
 瞬間、黒い水竜巻は弾け飛び、雨のように一帯に降り注いだ。
 その水滴から、この機械の眼で自らの姿をはっきり見た。
 ナンバーズ時代のタイトなスーツ……ただし色合いは青と黒で首にあったマークはない。さらに腕や腰にはシグナムさんのような装甲……あ、腰にYのマーク見っけ。極めつけは白のマント!
 そして闇の象徴と言わんばかりに頭から生えるコウモリのようなちっちゃな羽!パタパタ動かせるじゃん!すげーじゃん!
「蒼黒の騎士セインさん、見参!」
 闇の書っぽい本と無骨な黒い杖が教会の使徒っぽくて決まってるぜ、あたし!
 さあみんな、あたしを見てくれ!
「……まずいぞ」
 レヴィ、その感想ひどくね?
 つーかあたしの方、見てなくね?
『烈火の将め、我らが悪意ごときの虜になりおって』
 王様、変身出来たことよろこんで!
『うつけが!あれを見てみろ』
 と、無理やり顔を動かされ、シグナムさんがぶっ飛ばされた方を目にする。
 なんていうか、炎の繭がメラメラと燃えていた。
「悪意と融合したシグナムが出てくる……!」
 レヴィが数歩下がり、私の隣に来た。
「それでも王様と融合したセイン姉様がいれば!」
「ああ、負けはないね!」
 レヴィとあたし、それぞれ武器を構えて力強くそう言った。
「まずは先制攻撃りゃ!」
 そう言い、あたしは杖を繭へ向けた。
 ええと、詠唱は……。
『お待ちください』
 冷淡な声が届く。
「シュテル、目が覚めたのか!」
 レヴィが嬉しそうにバルニフィカスに声を掛ける。
 セインさん、ちょっと嫉妬。
『繭は中での変化を意味しております。迂闊に攻撃して破壊すれば烈火の将が砕け散る可能性もあります』
『再生するのも夜天の主の魔力どころか命を削る。否、もはや人間に近づいている時点で再生も叶わん』
 それは止めてくれてありがとう。
 しかしどうする、出て来た魔物が、あたしらの手に負えなかったら。
『こちらは力と知が、そちらは光と闇が一体化しております。想定外同士、むしろ数で勝ります』
「シュテル、ずいぶん前向きに……」
 大人びたレヴィが幼い声で問いかける。
 シュテルからの回答は無言だった。
「それじゃあ待とうじゃん。どんな姿になって出てくるか」
「その間に助ける方法、考えよう!」
 あたしとレヴィは顔を合わせ、今後の計画について語り合った。

 ◇ ◇ ◇

 作戦はこうだ。
 まず、出てくるであろうシグナムさんの変化した特徴を観察しながら牽制する。
 そして特性を見抜いたところでバインドやら石化魔法で動きを封じて、あたしが闇の書を通して悪意を飲み込む。
 最終的に悪意をコントロール下に置く。
 目的はあくまで悪意の蒐集。だから途中で何が起きても各々アドリブで動く。
 もしも支配されたとしても問題ない。うんざりするくらい保険は考えてある。
「セイン、本当に出来るのか?」
「姉様つけろよ、気分落ちるだろぉ」
 いや、マジで。
「あれは、その、ノリで……」
 ははあ、顔を赤らめていやがる。ういやつめ。
「アバランチ、結界強度は?」
 あたしはレヴィを包む赤い装甲に訊ねた。
『なのはさんのスターライトブレイカー二発連続までは耐えられます』
「どこのオペレーターだ、そんなすげえ結界、こっそり張ってるやつ」
 協力者が何人かいるって話だしな。
 その人達の負担にならんようにしないと。
 そうこうしている間にシグナムさんを包んでいる繭から何かが出てきた。
 見た目は人より大きい巨大な蜘蛛だ。そこに蜂の黄色と黒の模様やら蛇の頭、カマキリの腕とか、なんだか得体の知れない……言葉は悪いけど化け物が出てきやがった。合成生物というかなんというか、とにかくごちゃまぜの癖に妙な統一感がある。
 ところでなんで言葉を気にしたかというと、化け物の腹にシグナムさんの胸像があるから。
 取り込まれているとはいえ、化け物扱いは気分よろしくないよな。
「やりずら」
 私はぼやいた。
『我々を惑わすフェイクかと』
 バルニフィカスの中からシュテルが言う。
 それに対し、王様は真っ向から反論した。
『あれは将を利用したコアよ、奴を切り離すにもあそこまで埋め込まれては容易ならざるものがあるな』
 生まれたてのせいかこちらを認識していない。
 ただ、その辺の木や虫を食べて魔力を得ている感じだな。
『なるほど、ああして魔力を得られるのか』
 そういうもんなのか? なかなかわからんぜ、その辺の関係。
「王様が誇りに目覚めてくれて助かったぜ」
 そう言い、マントを激しく翻し、音でこちらに気づかせた。
『あれが闇の書プログラムに含まれた悪意……人間が嫌悪する生物の塊ですね』
 なるほど、キメラなくせに奇妙なバランス取れてるのはそのせいか。
 けれども。
「生憎セインさん、戦闘機人だしぃ」
「僕もただの構成体だし」
「やるか」
「やろう」
 レヴィとツーカーになって腕の甲冑同士を当て合う。
 あたしは詠唱を始めた。
 その間、レヴィが大人の姿で闇の書の悪意に飛び込む。
 ライオットバルニフィカスとカマキリの激しい斬り合いが始まった。
 鉄なのか魔力で護られているのか、見た目の薄さに反して堅そうだ。
『魔力の結合が疎かだぞ、集中せぬか!』
「こちとら戦闘機人だぞ!魔力の練り方なんか知らねえよ!」
『とにかく集中してお前に預けたリンカーコアを感じよ!』
 鬼コーチめ。いや、レイジングハートさんよりマシか?
 ……というわけで、あとは現場のレヴィさんに任せます。

 ◇

 ◇

 ◇

 OK、時間を稼げってことだね、セイン!
『セイン姉様と呼べよゴミクズ』
 ひっ、なんかすいません。
 王様取り込んでからかなり強気になってるなぁ。
 それにしても。
 相手もカマキリで双剣っぽいから、なかなか懐に入り込めない。
 おまけに蛇っぽい頭、嫌悪する。
 しかもその頭が、増えた!
 そいつらがガンガン攻撃してきやがる!
 こうなったら…。
 僕は柄を重ねあわせ、交互にブン回した。
「二天稲妻流!旋風刃!」
『興味深い。我々がかつて地球で生み出したヤマタノオロチですね』
 冷静に解説してないで少しは僕の臨機応変っぷりを褒めて!
 それにしてもますますグロテスクになっていく烈火の将。
 悪意が憎悪して、パワーアップしてる。おっそろしい。
『レヴィ、胸から小さいブラスタ打ち込んで距離を取りなさい。狙いは烈火の将』
「OK、シュテル」
 命令されるのは癪だけど、このまま消耗するよりマシだ。
 言われて僕は胸のコアから光弾をシグナムに浴びせて、ひるんだところで三メートルほど距離を取った。
「どんなもんだい!」
『だといいんですが』
 シュテルがため息をついた瞬間、八つの蛇の口が光った。
 光線だ、しかもかなり早い。
 僕は防御体制を取った。
『AFM展開』
 背中から七色の翼が広がり、すかさず僕を包み込む。
 こっちに薄まった衝撃が伝わる。軽減しているとは言え相当の威力だ。
 あんな細い光線で、すごいな……しかもそれが八本。
『八本も頭があったら死角がありませんね、ふふふ』
 人のピンチの最中にシュテルがなんか笑ってる、なんかむかつく。
 ……?
 シュテルが、笑った……?
「ていうか待て! あんな光線技、セインが狙われたら……!」
『姉様つけろって言ってんだろ、うつけが!』
 ひううう、なんか怖いよ!なに、闇の力に毒されてんの?
『それにあたしなら大丈夫だ!お前は集中して敵の全貌を暴け!』
「ラジャー!」
 セインの気合に毒されて、僕も思わず叫んでしまう。
 さてさて、敵さん、他にどんな仕掛けを持ってるのかなぁ、っと。
『レヴィ、面白いことを教えて差し上げます』
「あんだよ、シュテル」
『奴は先ほどから一歩も動いておりません。証拠に足がありません』
 あ、ホントだー。
 でもなんか根を張ってるね……。
『大地から魔力とエネルギーを吸収しているようですね』
「烈火の将なのに?」
『今眼の前にいるのは、悪意の塊に過ぎません』
「ああ」
 そっか、烈火の将はリンカーコアみたいなもんか。
 ……リンカーコア。
『シュテル、僕いい事を思いついたよ』
「どうやって懐に飛び込むんですか」
 あ、そっか、思考丸見えなのか。
「簡単だよ。アーマーを電撃の作用を使って一直線に飛びこんでやる」
『アバランチが耐えられると思えませんが……』
『あらゆる保護はされています。電磁系の影響など取るに足りません』
「決まりだね」
『決まりですね』
『ですが万が一、烈火の将の身に危険が及んだら……』
 これは意外な言葉だった。
「シュテルでも他者の心配するんだ、ていうか僕の心配してくれよ」
『あなたは私達と同じ構成体です。あちらは人間に近付いている……』
「ていうか今はフェイトの体だっての。それに、だったらなおさらだ……」
 僕の答えに、シュテルが声を抑えて驚く。
「あのシグナムが敵のコアにされて良しとするわけないだろ、フェイトもそう思うだろ?」
『……うん……』
 フェイトが小さな声で応える。
『……あの将はそのような矜持をお持ちでしたね……』
 仕方ないな、といった様子でシュテルが言った。
「わかったら黙ってて。アバランチ、魔力貯めこむからAFMは前面に展開して!フェイトも魔力、もっと引き出して!」
『かしこまりました』
『うん、全力全開で行くよ』
 うおあああああああ!
 この全身が滾る感じ……光でも闇でもない、ただの貫く意志。
 行ける、やれる、飛べる。
 そう、この力で、僕は飛ぶ!
「極光!雷速!貫通刃!」
 瞬間、AMFの壁を破り、自分でも出したことのないスピードでコアと化したシグナムへ飛び込む。
 クロスさせた蒼雷の刃が懐を貫く。
『真ソニックより、速い』 
 フェイトが驚嘆する。
 けれどそれ以上に、僕は驚愕した。
 そこにいたハズのシグナムがいないのだ。
 奥に潜り込んだか、移動させられたか。
 考えているうちに、答えは背後からやってきた。
 冷たい剣の感触と共に。
「シグ……ナム……?」
 ほんの一瞬だけ、僕ではなくフェイトが声を出す。
 剣は切っ先を襟元に突きつけていた。
 それは蛇腹になり、僕の首を絞めつけた。
「貴様も悪意と憎悪に染まれ、闇の子よ……」
 意識のない声で悪をささやく。それだけで意識がとろけかけた。
 怨嗟も血もない、けれども流れこんでくる悪意と憎悪が妙に心地良かった。
 それは人の性なのか闇の性なのか。
 いずれにしてもこのままでは取り込まれることは必然。
「負けてたまるか!」
 虚ろな目でも声を張り、自分を貫く。
 しかしそれさえも溶かしそうなほど、悪意が発する甘美で強大な力の誘惑に少しだけ魅力を感じた。
 ひょっとしたら、こっちの力の方が……。
 けれどもその瞬間、本当に瞬間だ。
 一陣の風がレヴァンティンの戒めをほどき、僕を開放した。
「させないですよっと」
 気がつけばそんな事を言っていた白髪長身の女性が僕を抱えて尻餅を付いていた。
「!?」
 あまりにもの不意は油断を有無には大きく、勝利を得るには十分な瞬間だった。

 ◇ 

 ◇ 

 ◇

 レヴィが離れ、完全にがら空きになったシグナムさんを見て、私は叫んだ。
「いよっしゃ!整った!」
 言いながら黒い杖をぶん投げる。
 予定変更だ、あれだけの隙が出来れば十分だ!
「その悪意、あたしによこせやああああ!」
 あとは王様の魔力で加速させる。
 それだけじゃない。
「神風!」
 アリオンさんの風と。
「蒼雷光!」
 レヴィとフェイトさん、二色の雷。
 二つの力を得た黒色の杖は雷を、光速を超えた。
「合体魔法、タキオン・ヴェロシティ!」
 レヴィは気高く叫ぶ。
 それは時空をも越える技。
 あたしとアリオンさんの加速と、レヴィによる雷光の力が引き起こした光速を越えるスピード。
 時間を逆行し、移動して避けようとしたはずのシグナムを刺さり、更に勢いは止まらず背後にあったクリーチャーにブチ刺さった。
「ぐあああああ!」
 叫んだのはシグナムさんじゃない、蛇頭の群衆だ。
「レッツ封印!」
 そう叫ぶと、闇の書が異常なスピードで書きこまれていく。
 これってひょっとして、ページ数が足りないのではないか。もしあぶれたら、苦労が水の泡じゃねーの?
 暴力的に書きこまれ、めくられるページを、あたしは強引に止めた。
「言ったろ、あたしによこせって……!」
 そのまま手から、注ぎこまれていく悪意を吸収する。
 背中から黒い羽が六枚、生えるのを感じた。
 これ、ひょっとして悪魔ってやつか?
 なるほど、悪意を飲み込むには相応しい姿じゃん……♪
「セイン姉様!」
「セインちゃん!」
 レヴィとアリオンさんが駆けつけ、その手を重ねた。
 羽根の成長が八神部隊長くらいで止まる。
 更に余った悪意も分散し、あたし達の体へと薄く流れ込んだ。
 それは人並みの感情だった。
 イライラするとかわけのわからない怒りとか、そんな感じ。
 何より見えた、はっきり感じた。
 シグナムさんのフェイトさんへの長年の執着。
 なるほど、シグナムさん。そいつは誤算だったよな。
 あんたのフェイトさんへの執着が、まさか悪意として闇の書の悪意に利用されるとは、って。
 いずれにしても生きてりゃ一生付き合っていくような感情だ。
 ただし、それらが一気にきたせいで……。
「うえ、頭がガンガンする……」
 レヴィの声が聞こえる。
「やった、ようだね……」
 アリオンさんの声も聞こえる。
 けれど、姿は見えない。
 それと、背中と頭に地面の感触がどさりとやってきた。
「セイン姉様!」
「私のラボに運ぼう!レヴィ、お願い」
「うん!」
 徐々に薄れていくかと思ったら、レヴィの元気そうな声を聞いた瞬間、あたしの意識はぷっつりと切れた。



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初版:2011/6/18

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