あれは夢だったのかもしれない。
 フェイトお嬢様からの抜擢。
 マテリアルたちとの不思議な共闘。
 そして、勝利。
 なにはともあれ、眠れる姫様にそんなお話を聴かせたりするのがあたしの仕事だ。
 お姫様は今もぐっすりで、ふとした拍子に起きそうなくらい安らいだ顔をしている。
 さて、この話が事実かどうかが気になると思う。すばり事実さ、多少内容は美化したけど……。
 あのあとは大変だった。
 気がついたらあたしはカプセルの中で修理中だった。
 どうやら闇の力でフレームが歪んだらしい。
 アリオンさんがドクターに一時期師事していたのは幸いだった。
 完璧な応急処置がほどこされ、特に耳の復旧が早かった。
 カプセルの向こうから、声が聞こえた。
 シスターシャッハとアリオンさんだ。
「遅くなりましてもうしわけありません、アリオン」
「いやいや、代替案は準備していたから大事にはいたらなかったですよ。それより教会は彼女たちの処遇をどうするのですか?」
「ひとまず教会で預かります。出来れば成長したオットーたちに……」
「セインちゃんも適役だよ」
「あの子はまだ未熟です」
「その割に状況に対して柔軟に対応していたけれど」
 嬉しいこと言ってくれるじゃん。
「なにより、優しい。吸収した悪意なんて屁でもない様子だ」
「あの子は元々ひねくれてますから」
「それは私もだよ」
 アリオンさんがふっと笑い、あたしと対面を指差す。
 三つのカプセルが並んでいた。
「スカリエッティ氏の技術を利用してマテリアルたちを仮初めの肉体に宿らせた。いや、そんな怖い顔をしないでください。人型の魔動機に三人のコアを宿らせただけです。戦闘機人の改造より容易い」
 あたしは対面のカプセルをよーく見た。
 シュテルが、王様が、レヴィが、教会の修道服を着て安らかに眠っていた。
「ん、セインちゃんが気づいたようだ」
 そう言い、リモコンでカプセルを開く。
 あたしは真っ先にシスターシャッハのところへ駆け寄った。
「すみません、フェイトお嬢様の護衛を命じられたのに……」
「気にしないように、シスターセイン。執務官ならば隣の部屋で熟睡しておりますから」
 妙に優しいけど、これは落雷の前触れだろうな……。
「それよりも!」
 はいきた、落雷きた。
「皆さんから聞きました。闇の力との融合やらマテリアルたちとの余計な接触やら、いろいろと仕出かしてくれたようで」
「シスターシャッハ、それには理由が……」
 アリオンさんがフォローしようとしたけど、手のひらを見せて静止を促した。
「……あまり心配をさせないでください。今のあなたはケガだけで悲しむ人がたくさんいるのですから」
「シスターシャッハの仰る通りだ」
 シグナムさんまであらわれた。歩き方がフラフラしている。
「シグナムさん、もう大丈夫なのですか?」
 アリオンさんが心底不思議そうに訊ねる。シグナムさんは口元だけで笑った。
「ああ。テスタロッサとチンクはまだ寝ている。激しく魔力を消耗したわけではないからな、お前の優秀な助手に救われた」
「ノアのことを優秀と言いますか」
 あのアリオンさんの顔が引きつった。
「なんだ、ノアだったのか、ずいぶん成長したのだな」
 懐かしげにそう言い、シグナムさんはこちらを向いた。
 あたしはチラリとアリオンさんを観た。
 何やらぶつぶつとかんがえこんでいる。
 なになに?
 まさか悪意を吸収しすぎて毒気がなくなったのでは?って……技術者って大変だねぇ。
 なんて分析している間に、シグナムさんは私の前に立って肩を手を載せた。
「騎士には、時には顧みないことも必要だ。お陰で救われたことも否めない。むしろ感謝をしている。だがシスターシャッハの言うことも正論だ」
 こんなこと言う人なのか、その、騎士シグナム……。
「本来ならば礼として鍛え上げてやりたあが」
 いやだ。すげえいやだ。
「多忙故にたまにしか面倒を観ることが出来ない。そこでだ、シスターシャッハ」
「はい?」
「彼女を立派な騎士にしてやってくれ、既にされているならばより強く」
「ちょあ」
 驚きが言葉になりそこねてこぼれた。
「騎士シグナムのご要望ならば」
「よろしく頼む」
 そう言い、二人はがっちり握手した。
 あたしは目の前で締結された悪夢の契約を誤魔化すためにマテリアルたちの入ったカプセルたちを見た。
 薄く眼を開けたレヴィと目が合った時、思わず顔が綻んでしまった。
 っていう話。
 果たして冥王様はお気に召してくれただろうか。
 トントントン
 謎のノックが聞こえたので、あたしは静かにドアを開けた。
 噂をすればなんとやら、だ。
 教会の服を来たレヴィが、満面の笑みで両手を上げていた。
「セイン姉様、稽古の時間だよ!今日も練習、がんばろーう!」
 そう明るく宣言した後ろの方では、王様がツンケンしていて、シュテルはうっすらと笑ってあたしの方を見ていた。
 こういっちゃ悪いけど、離れた妹たちの代わりが出来たみたいで、なんか、嬉しかった。
 ……いつか放れることになる?
 そのくらい承知の上さ。なにせ前例がある。
 だからこれから先、どんな色の未来がやってこようが、あたしは受け入れられる。
 こいつらの存在が消えても、こいつらが再び敵になろうとも。
 そう、今はただ、立派なシスターに育って欲しいね。
 あたしよりも早く、光よりも速く。
 そしてもし神様ってやつがいるなら、時空を越えて今のこいつらを生まれた時代に帰してやってほしい。
 そして、あたしらみたいになのはさんやフェイトお嬢様にもっとマトモな……あ、タキオンヴェロシティで可能かもしんねえよな。
 でもやんない。
 少なくとも今のこいつらは、あたしらシスターが面倒見てやる。
「おい、媒体。なにをにやけておる。笑う暇などないぞ、何せ今日は烈火の将が来ておるのだからな」
 マジカヨ、王様。つか媒体ってなんだよ。合体は二度とごめんだぜ?
「ご安心ください、セイン姉様。将のしごきは私のオリジナルほどではありませんから」
 いや、ホッシー、比較対象がおかしいから気休めにならねーよ。
「大丈夫だって、セイン姉様。今度は新しい連携プレーを考えたもん!」
 今度はあたしをどう投げるつもりだ。
 つか、お前との連携プレーでこないだシスターシャッハとディードに完敗したろうが。
「つーか出て待ってろ、眠り姫様の夢がざわつく」
 やかましい三人を追い出し、扉を静かに閉めた。
 そして、イクスのところに近寄って、寝顔を確認する。眩しい笑顔だった。
「夢の中にあいつらが出てんのかな」
 ……。
 呟いてから思う。
 悪影響を与えませんように。
「セイン姉様、シグナムきたー!」
 やべっ、早く行かないと。
 ……。
 あたしはドアに向かう前に、イクスの頭をそっと撫でた。
「ちょっくら妹たちの面倒見てくるからな」
 出来れば面倒見るだけで済んでくれ。
 と、その前に。
「また面白い話、訊かせてやっからな」



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初版:2011/6/25

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