勢いってのは良ろしくない。
 気がついたら雷刃と屋上に来ていた。
 修道服で街をウロチョロするわけにもいかないし。
 何より夜が好きなようなので、星空に近づけてあげようかなって気持ちでやってきたのだ、今思えば。
 フェイトさんが宿場に選んだ街は夜でも暗めの街並みで、星空がよく見えたりする。
 だから雷刃みたいな子どもじゃなくてもはしゃげるわけで。
「おーすげ!こんなとこでも見れるもんだ!」
 思わず声をあげてしまった。
「凄い……闇の中にも光はあるものなんだな……」
 予想を裏切る雷刃の言葉。眼も妙に安らかだ。
「……あるさ。だから、生きてる」
 あたしは胸を張って言った。
 勿論、根拠なんてない。
「だったら果たして、何のために生きてるんだろう。セイン、キミは疑問に思ったことは……」
「ないない」
 ソッコーで首を振ってやった。
「まあ、強いて言えば自分のためだろーて」
「正論だ、他人のために生きることなんて馬鹿げてる」
「やっぱりそう思う?」
「ああ」
 きっぱりと言い切る、大した自信だ。
 けどこのくらいの年なら普通の感覚なのかも。
 そこからたくさん学んで、いつかフェイトお嬢様やシスターシャッハのようになるんだろうな。
 で、歪んだ育ち方をしたあたしはというと、こう言っちゃうわけよ。
「まあ、他人のためになることをして、結果自分が得することもあるってもんだけど」
「例えば?」
 それ聞いてくるか、コイツ。
「例えば……ちょっとだけ時間くれ、なんなら金払う」
 もちろん教会の支払いで。
「口から出任せにもほどがあるぞ」
 あらやだ、なにこの子、プンスカ。
 ちょっと可愛いじゃん。
 ていうか出てこないんじゃなくて、多すぎて選べないんやっちゅーに。
「とにかく、情けは人のためならず、己の強さのためにやるのだよ。これなら雷刃でも人助け的なこと、やりたくならないか?」
 思うとこがあって強さのため、を強調しといた。
 あたしの読みか当たりなら……。
「……なるほど、強さか」
 はい、ビンゴ。鼻がヒクヒクしておる。妹より単純で助かったわ。
 その時ちょうど、ひゅるりとやわらかい風があたしらを包むように凪いだ。
「……ここの闇もなかなか気持ちいい、あんなにたくさんの光が、何故だろう、ひどく美しく感じるよ」
「そりゃけっこー」
 こりゃお嬢様の魔力の影響かな。
 夜空に向かって思いっきり深呼吸なんかしちゃって、まるでセイシュンってやつだ。
 ……。
 なんか、そう言うの、いーじゃん。
 というわけで、あたしも深呼吸、と思って空を仰いだ。
 その時だった。
 星の光が突然強くなったのは。
「セイン!」
 雷刃があたしを突き飛ばす。
 かと思えばカードみたいな光が大量に降り注ぎ、雷刃の薄皮に突き刺さった。
「なんだよコレ!」
 ついた尻餅を撫でながら立ち上がる。
 悠長さは当然アダになって、あたしの目から光を、手と足からは自由を奪った。
「ふんぎぃいいい!」
 機人の力でも解けないってことは、魔力によるバインドか……。
 なんて相手を推測しているうちに、アタマが痺れてきた。
「セイン!セイン!」
 雷刃が切ない声あげて、あたしをまっすぐに求めてる。
 ちきしょー、心開いてくれたのに、なんなんだよ、いったい!
「探しましたよ、レヴィ」
 ……なんだ、この声。
 なのはさんか?
 にしては幼い声だ。落ち着いているけど、なにかがおかしい。
 まるで樹氷のような、そんな耳触りだ。
「おまえ、なんなんだ……」
 怯えと戸惑いを露わにして雷刃が訊ねる。
 その答え、あたし知ってる。
「我が名はシュテル……それとも、星光の方が覚えがありますか?」
 来ちゃったか、ついに。
「……知らない。ただ、僕と同じ魔力を感じる」
 そりゃそうだろうな。
 星光と雷刃。
 どっちも、ずいぶん昔にあった闇の書事件の落とし子なんだからよ。
 問題は星光側を調査していたシグナムさん達だ。……いったいどうなったんだ、そもそも見つけられたのか?
「ならば我々のなんのために生まれたかも……」
「そんなの自分が強くなるために決まってるだろ!」
 雷刃は強く言った。
 早くもシスターセインの説法が生きたかな、なんてね。
「そう、強くならねばなりません。王をお守りするために。そうですよね、将」
「ああ、その通りだ」
 うげっ、シグナムさん……!
 なにがどうなってやがんだよ、これ!
 チンク姉は……!
「…………!」
 っていうか、あたし、しゃべれねえ!
 ちきしょー!
 雷刃、逃げてくれ、頼むから逃げてくれ!
「……強くなるのは、自分のためだ……!」
 キン……と、空気が破裂するような音が響く。まるでトーレ姉の高速移動みてーだ。
 ということは、まさか雷刃のやつ、フェイトお嬢様の……ふんぐっ!?ひょっとした、抱えられた!?
 おう、目は見えないけど、手足は動く!
「セインは返してもらうからな!」
「待ちなさい、レヴィ!あなたの魔力では
まだ……!」
 ん、なんかやな予感。
「うあああ!落ちるーーーー!」
 だああああ!バカヤロー!
 こうなったら!
 やるしか!
 ねえよな!
 アリオンさん!
 10分くらいで忠告破ってごめんなさい!
「雷刃、口閉じてろ!」
「ふんぐっ!」
 はい、地面に向けてIS全開!
 ディープ・ダイバァアアア!
 と、その瞬間。
 ぶつん、と。
 あたしの中で。
 なにかがきれ

 ◇

 ぶはぁ!
 なんとかかんとか脱出出来た。
 セインの能力はすごい。まさか物質の中を通り抜けられるだなんて。
 お陰で逃げられたけど……ここはどこだ、妙に薄暗い。
 背の高い植物がボクを見下ろして、カサカサと笑っている。
 なんか、屈辱だ。切り倒してやりたい。
「セイン」
 湧きあがる怒りをしずめようとして、セインの声を求めた。
 しかし声は返らない。
 セインの方を見た。
 眼が開いている、生きているようだ。
 しかし無造作に転がり、ぐったりしている。
「セイン、ここはどこだ?」
 訊ねて、頬を叩く。
 息はしているみたいだけど、目がまるでガラス細工みたいにぼやけていて生気がない。
 ひょっとして、機能が停止しているのか?
「いったい、どうしたら……」
 弱気が顔を見せて、ボクに「逃げよう」と耳打ちをする。けれどもプライドがそれを許さない。
 無から解き放たれて、様々な施しを受けて、この身を助けられて、そんなことをしてくれたやつを見捨てて逃げられるほど、落ちぶれたくない。
「ふんぬ!」
 ボクは背負った。このおせっかいの命を、体ごと。なに、ボクは力の化身だ。重すぎるなんてことはない。
 ただ、問題があるとすれば、こいつの体が意外と大きいということだ。
「くう、顎が首に当たる……」
 しかも妙にくすぐったい。
 けれども、なぜだか懐かしい。
 以前にも、こんなことがあったのか?
 欠片と化した記憶を手繰り寄せて、復元を試みる。
 ふと、懐かしいと感じられる破片が胸に降り注いだ。

 ◇

 シュテル!シュテル!ああ、よかった!まだコアは残っていた!王、お願いだからシュテルを元に戻してあげて!
「……よかろう。ただし、二つの契りを心に刻め」
 いいよ、シュテルとまた会えるなら!
「まず一つ、必ずや我が野望を成し得よ」
 ああ、ボクだけでも十分なくらいさ!
「我が欠片のくせに、いや、我が欠片だからこそ頼もしい言葉よ……」
 あれっ、王、今笑った?
「貴様の馬鹿正直さに呆れただけよ」
 嘘だね、鼻がひくひくしてる。
「黙れ、欠片よ。もう一つの制約を伝えるぞ」
 うん!
「我が核を守り抜け!」
 うわっぷ!?
 あれっ、王?王様?
「……レヴィ、ここは……」
 あれっ、シュテル?もう再構築できたの?
「ええ、王の声に応えて……王はどこです?」
 わかんない。
 自分のコアを守って、野望を達成しろって言って、急に……。
 ん?なに、シュテル。ボクの胸なんか触って。
「……レヴィ、どうやら王はあなたの中で眠られているようです」
 な、なんで!?
 ボクよりシュテルの方が安全なのに……。
「私に訊かないでください。私はもう一つの命令を進めます。あなたは王のコアを守り抜いてください」
 ……うん、わかった。

 ◇

 あれっ。
 なんだ、これ。
 ほっぺたが濡れてる。
 あれっ。
 なんでだろう。
 眼がすっごく熱い。
 視界もぼやけてきた。
 ひょっとして、ボク、壊れた?
「だめだ、こんなんじゃセインも王様も、守れない……!」
 弱虫が口から溢れた。
 出来れば飲み込みたかった。
 けれども一度這い出たそいつは、ボクの足を折りまげさせた。
 一緒にポタタ、と、顔から水が零れた。
「えぐっ、なんだよこれ。眼から水滴垂れ流して……まるで人間じゃないか……」
 わけがわからない。
 涙なんてボクたち闇の残滓に有り得るわけがない。
「それは我らが形を持ってしまったからよ」
 セインが耳元で囁く。
 ボクははっとして、顔を上げた。
「よかった!貸しを作ったまま死なれたらどうしようかと……」
「命じたとおり守ってくれたのだな、我が魂を……」
「えっ」
 なにいってんの、セイン。
 そう言おうとしたら、答えが先に向こうからやってきた。
「それだけでなく仮初めの器まで用意されていとは……我らを封じた塵芥め、粋なことをしてくれる」
 その言い回し、まさか、ひょっとして。
「もしかして、セインじゃなくて王?」
「なんだ、気づいておらなんだか……」
 バカにしたようにセインが笑う。
 いいや、セインじゃない。
 ボクらの王がセインの姿で笑っているんだ。
 ……。
 いったいどうしたらいいんだよ、これ……。
「えーと、王様」
「なんだ、うつけ」
 わあ、やっぱり王様だ。
 よし、ダメ元でお願いしてみよう。
「しばらくセインの……その器の振り、出来る?」
「我に不可能などない」
 よしっ!これならしれっと部屋に戻れるぞ!
 ……ところで、部屋ってどこだろう。



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初版:2011/4/11

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