「まずは目的を確認するぞ」
 凛然とした声でチンク姉が言う。
 場所は公園の噴水前。襲撃に備えてレヴィが辺りを警戒し、アリオンさんとセインさんの皮をかぶった闇統べる王が背中合わせで話をしあう形になっている。
「騎士シグナムと星光のマテリアルの確保」
「シュテルだ」
 王様が暗に訂正を求める。
「失礼した。騎士シグナムとシュテルの確保が第一の目標だとして、次はどうすればいい?」
「私の工房で二人を一時的に機能を停止させ、あとはフェイトさんに任せるつもりだよ」
「アリオン、あなたは戦えるのか?」
「兄さんからデバイスを借りたから問題ないよ。ただし、身を守ってみんなの戦略を組むのが精一杯だから、その、よろしく」
「デバイスってなんだ?」
 レヴィが不躾に訊ねる。
「棒」
「棒?」
「そうだよ、棒だよ」
 レヴィは「そんなんで戦えるのか」という顔をした。
「ほう。魔力の質は風か、珍しい血筋よの、手合わせした覚えがある。」
 王様ってば、私の身体をフルに活用してアリオンを分析したか。脳が焦げ付くから控えてくださいませ。
(うむ)
 あらやだ、聞こえてた。この調子で意志疎通していこう。
「ならば前はレヴィと我で行こうぞ」
「私はアリオンの護衛をしながら動こう」
「……ありがとう、チンクさん」
 アリオンさんはどことなく懐かしそうに応えた。
「相手はどちらもパワー寄りだからレヴィちゃんのスピードと王様の器であるセインちゃんのトリッキーな動きが鍵だ。想定外さえなければ勝ち目は七割」
「残りの三割は?」
 チンク姉が熱のない声で訊ねた。
「レヴィちゃんとロードから抜け落ちている、いわゆる悪の部分がどう動くか……」
 と、その瞬間のことであった。
 炎の矢が一閃、あたしらに飛びこんてきた。
 よけた瞬間、噴水が破砕された。
「お出ましだね」
 水しぶきの中、アリオンさんはにやりと笑うと、アリオンさんと同じくらい長い深海色の棒を出現させ、軽めに握った。
 ……長い白衣のままなだけに、なんかこう、特攻しかけそう。
「ヴァルニフィカス、起きろ!」
 そう言い、青い三角形のペンダントを正面に突き出す。
 一瞬、蒼く輝いたかと思えばバルディッシュのコアが青くなった武器が現れる。
 更に姿もフェイトさんのバリアジャケット。
 元々戦闘服を着ているチンク姉とあたし含めて、青率高いなァ!
(セイン)
 なんスか、王サマ。
(我も変身したいのだが)
 ありません。
(……覚えておれ)
 私怨が生まれた。
 一方、敵さんはというと……。
「シュテル、テスタロッサはいないようだ」
 高いところから、炎と星があたしらを見下ろしている。
 やだなぁ、あたしらの中で飛べるの、レヴィだけじゃんね?
「ええ、私としたことがなにを間違えたのか……」
「相変わらず病的なほどに真面目よの、シュテル」
 王サマが敵を挑発した。マジやめろ。
「知ったような口を聞かないで欲しいものですね、見ず知らずの機械人間ごときが」
「塵芥のくせに、相変わらず口が実に達者だ」
 王サマ、私の顔で鼻で笑わないでください。
(答えはNOだ、セイン)
 ……せめて再生出来るように脳髄は残ってますように。
「待て、シュテル。……セイン、貴様、いつからそんなに偉くなった?」
 お、シグナムさんがようやく気づいてくれたか?
「まさか烈火の将がようやく気付くとは、この体、なかなかの逸材だな」
 そりゃねえ。
 突然変異で出来た体ですから。
「将、いったい何を言っているのです?」
「我らが王の魂、ヤツの体に入っているぞ」
 指差すなコラ、劣化の将が!
「まさかそんな……ああ、なんということでしょう、王、変わり果てられて……」
 星光、シュテル……うーん、面倒だ、ホッシーでいいや。ホッシーが何かを感じて目を丸くする。
「なかなか居心地は良いぞ、家主が協力的でな」
 王サマの意識が強すぎて意見が出来ないだけです。
 瞬間、爆撃がシグナムさんとホッシーを包んだ。
「何をしている! 早く確保しないか!」
 なんだ、チンク姉のお家芸か。
「ば、バインド!」
 青い光輪が二人の体を縛る。
 けれど、すぐにそれは破られた。
「レヴィ、どうやら魔力供給が安定していないようですね」
 ぞっとする笑みを浮かべるホッシー。
 一方、シグナムさんは……。
「主力は貴様だ!」
「やらせん!」
 チンク姉とぶつかった。
(セイン、どっちを支援する?)
 向こうにはアリオンさんがいるから、レヴィの方を……ぶぎゃ!
 すっごい風と共にシグナムさんが吹っ飛んできた。
 慌ててディープダイバーで身を潜め、指先の目で状況を見るように王サマに指示を出す。
「ちっ、ただの科学者ではないな……?」
「文武両道が一族の教えなので、シグナム副隊長」
「チンクさん、私を気にせず戦ってくれていいよ。それにしても兄さんのやつ、いつの間にこんなに強化したんだろ」
 すげえな、アリオンさんの一族。
(あの資質、やはり過去に見覚えがあるな)
 マジかよ、王サマ。
(ああ、闇の書の力で津波に飲まれた国の一つで、最後まで抵抗した風に似ている)
 意外な因縁だ。なるほど、アリオンさんが急に出てくるわけだわ。
(さあ、セインよ。我はどうすればいい? うぬの能力はこのとおり、戦闘には不向きだ。はっきりいって、この連中と組んではただの役立たずだぞ)
 そんなこと、自分でよくわかってるっての。
(ならば我が力を使うか? 悪いようにはせぬぞ)
 いいや、自分の限界で戦うさ。
(そうか、ならば……)
 ん……?
 お……?
 これは……。
(主導権をうぬに一度返そう。どうやら我らの意識の同調が鍵のようだな)
 それは燃えるぜ、王サマ!
(うぬの働き、見せてみよ)
 OK、王サマ。
 ということで、劣勢なのは……うん、どう見ても出力不足のレヴィだな。
「セインさん、飛びます!」
 と、地面の下で叫んでみたりして、そしてホッシーの背後に上手く飛んで……。
「ひゃっほう、ホッシー♪」
 あはは!羽交い絞めにしてやったぜ!
「ロード、いったい、どこから……!」
「そりゃもう地面から。ていうかロードじゃねーよ、セインさんだよ」
「ナイス、セイン姉様!」
 おふっ、ちょっと感激。ていうか、
「感心してないでさっさとどうにかしろや!」
「そんなこと言われても……」
「その前に、私があなたをどうにかしてさしあげましょう」
 そう言い、ホッシー……もとい、シュテルは反転して頭を地面に向けた。
 そして無表情のまま急降下を始めた。
「あなたは意外と背が高いので、利用させてもらいます」
「……」
 私は無言になった。
 あたしのまま行けばきっとかち割れる。
 どこがって、そりゃ脳髄がさ。
 誰のって、……シュテルの、な。
 けれどもどっちもさせねーよ!
「にゃっはっはっは!」
「!?」
 不自然な笑い声を上げて、わざと動揺を誘う。感情が薄そうだから効果もありそうにないけれど、思考を停止させるには十分のはずだ。
 地面にぶつかる直前、私は自分にしかない能力を発動させた。
 IS……ディープダイバー。
 無機物と思しきものを通り抜けるだけの、単純な能力。
 けれども、ハサミは使いようなんだぜ!
(その通りだ、セインよ。それにこやつはマジメ故、想定外の状況には弱い。機会は今ぞ!)
 ナイスアドバイス、王サマ。
「といや!」
 シュテルが何が起きているのか分らないうちに、あたしは再び地上へ飛び出した。
 きっとシュテルの視線の先には、桜色のポニーテールがみえているはずだ。
 そして、背後に気配を感じたシグナムさんならば……!
「!」
 レヴァンティンの柄がシュテルの腹へと暴力的に食い込む。
 一方で隙を作ってしまったが故にチンク姉の爆撃に見舞われる。
「なんて、非常識な……」
「……おのれ……!」
 悪態をつきながら跪く。
 あたしらは背中合わせで土に尻をつけた二人に対し、各々の武器を突きつけて四方から取り囲んだ。
 ……私はチンク姉からこっそり借りたナイフですけれども。
「セレナさん、状況は終了したよ。結界を解いて拘束の準備を頼めないかな」
 アリオンさんが、どうやら協力者らしき友人に通信をしている。
 あたしの同じ髪の色してる。
『お疲れさま、今、本局に連絡いれるから』
 やれやれ、これで終りっすな。
 と、大団円で終わりそうな流れになった、その瞬間だった。
 真っ黒い炎の塊が直上から落下して、シグナムさんとシュテルをつつみ燃やした。
「何が起きた!」
 チンク姉が慌ててシグナムさんに手を伸ばす。その手を、シグナムさんが黒い炎に包まれたまま掴んだ。
「貴様の能力、全て頂く!」
 まるで悪鬼のような声。
 次いでシュテルも、アリオンさんの腕を掴んで、鋭い声を発した。
「まだ終りません、あなたの魔力、いただきます……!」
「く……う……!」
「なんだよ、これ……!」
 レヴィが驚いて身を引いた。
 私はすかさずレヴィを抱き上げ、その場を大きく離れた。
(いい判断だ、セイン)
「おい、王サマ、ありゃ何がどうなってんだ」
(わからぬ。ただ我らの他に欠片が存在したとしか……)
「デカ女!眼帯!」
 衰弱していく二人を見てじたばたするレヴィ。
 その姿は、言葉はともかくフェイトさんに通じるものがあった。
「……チンクさん、悪いけれど、離脱するよ……!」
「ああ、上手くやりおおせてくれ……」
 そんな会話が、セインちゃんのスーパーマイク搭載イアーに入り込んでくる。
 アリオンさんが懐かしそうに、そして悲しそうに微笑んでいた……気がする。
「ふっ!」
 と、腕を捻って胸に引き寄せ、アリオンさんはシュテルから離れることに成功した。
「あとはよろしく頼むよ、セインちゃん!」
 そう言い、風を巻き起こして姿を消した。
 ……。
 あなたはニンジャとやらですか、チキューの。
 一方のチンク姉は……。
「……騎士シグナム、まさか、この炎は……!」
「ああ、アイツの炎だ。ほしがっている、我々と同じ大きさの体をな」
 おい、まさか……。
「アギトさんまで取り込まれてたのか……」
 ていうか、ついてきてたのか……。
 いや、多分、呼び出されたんだろうね、洗脳されたシグナムさんに。
(あれに我らの悪とやらが宿ったか)
 そういうことさ、王サマ。
「セイン、これ、何がどうなってるんだよ!」
「がなるな! 今、どうすりゃいいか考えているっての!」
 一時離脱か、それとも……いや、狙いはどうせあたしらだ、援護が来るまで耐えるしかない。
 幸いあたしの能力はそれに優れている。レヴィだって、スピードがある。
 なんて、考えているうちに三つの影が黒い炎に包まれて、立ち上がった。
 見た目は変わらないけど、魔力が増したシュテル。
 桜色の髪が真紅となり、更に鎧も黒く染め上げられた騎士シグナム。
 そして、チンク姉の名残のように眼帯をつけた、黒髪のアギトさん……。
「見つけたぞ、我が核よ……」
 アギトさんらしからぬ声であたしを指差す。もうなんていうか、シンプルにダークアギトって呼んじゃえ。
 しかも声、チンク姉だし。あたしとほとんど似た状況じゃねーか。
(ううむ、我が二人いる、何とも不思議な状況だ)
 もうちょっと深刻に受け止めてください。
「灼熱の略奪者よ、奴等をここに」
「かしこまりました」
 珍妙な異名付けられてかしこまってんじゃねえよ、シグナムさん!
 なんてあたしらの気持ちも知らないで、一歩一歩近づいてくる。
 とりあえず逃げるか?レヴィ抱えて。
 けれどもレヴィはバルニフィカスを構えている。
 その瞳は、力強く、逞しい。
 まるでそう、フェイトさんのように。
「ボクがやらなきゃ、誰がやればいい!」
 そう叫び、マントを脱ぎ捨てる。
 いわゆる一つのソニックフォームってやつか。
 くそ、だったらあたしが残り二人を牽制しなきゃなんねーな……!
「行くぞ、シグナム! ボクかキミ、どちらかが壊れるまで! いや、ボクは砕けない! 腐り果てた炎で、ボクを砕けやしない!」
「ほざくな、欠片無勢。粉々にして、我らが王に差し出す」
 前口上すげーな、キミら。
 あたしゃすでにホッシー達の前に出て、自分の限界を感じてるってのに。ほら、ちょっと膝震えてるし。
「貴女に何が出来いるというのです」
「さあね、ただ、お前のコアがここにいるなら、下手な攻撃も出来ないだろうと思って」
 そう言い、ダークアギトを睨みつける。
 その答えは、嘲笑だ。
「甘いな、塵芥。その逆だ。我を縛り付ける王の誇りとやら、ここで穿つ!」
「馬鹿な、誇りなくして何が王か!」
 いやーん、王サマ、勝手に交代しないでください。
「行くぞ、シュテル。この戦い、奴を手にいれれば勝ちぞ!」
「来い!」
 来るなァー!
 近距離からの砲撃と炎熱弾。
 それをあたしの両手で受け止める王サマ。
 いたいいたいいたいいたい!
(辛抱せよ、塵芥! うぬの体など修理は容易であろう!)
 だからって両腕無くすほど頑張るんじゃねーよ!
 くそ! ペリスコープアイつかえねーじゃねーか。
 これじゃディープダイバーしても安全を確認して逃走とか出来ねえだろ……!
「機械人形の耐久力に助けられましたね、けれどども次はありません」
「ふん、足で蹴りあげてくれる」
 無茶を言うな!
 って抵抗しても王サマは頑として動かず、二人の砲撃を待ち構えている。
 これが、闇統べる王の矜持ってやつか……!
 黒と紫、二つの魔力が溜め込まれ……今、あたしの体をうち貫こうとした、その時だった。
 四肢と胸を覆う真っ赤な装甲をまとった金髪の天使が地上にへ着弾するように降り立った。
「アバランチ、雷刃への擬似魔力の供給とAFMの展開、どうかな?」
『全てにおいて安定しています、フェイトお嬢様』
 聞き慣れた優しい声と、最近聞き覚えた機械の執事の会話が耳に届く。
 あたしはそれを聞いて心底安堵するとともに、遅れてやってきたブラックアウトダメージによって意識を失った。



もどる/次へ
目次へ
初版:2011/6/4

inserted by FC2 system