突然、七色の光が僕達二人に浴びせられた。
 発生場所は幸い、シュテルの後ろ、つまり僕の視線の先だ。
 そこにはぐったりしているセイン姉様と、まっすぐに立っているフェイトの後ろ姿があった。
 腕と足、そして胸周りを赤い装甲でかため、背中からは先程の七色の光を射出している。
 この光……魔力の結合を台無しにする系のやつだな、けれどなぜだろう、僕には力を与えてくれる。
(雷刃、聞こえる?)
 魔力の波に乗せて、フェイトが声をかけてくる。
(なに?)
(私は持って十七分。それまでに決められるかな?)
(簡単だね)
 この光のお陰で、シュテルの力は衰えているに違いない。
 さっさと済ませてフェイトとセイン姉様、そして王様の所へ駆けつけないと。
 僕はそっと、シュテルの目を観た。相変わらず感情のない瞳だ。
 ……そう、相変わらず。
 だんだん思い出してくる。彼女といた闇の中での記憶を。あれから何年経つんだ?
 夜天の書の主達に屠られてから、いったい、どのくらい。
「余計なことを考えすぎですよ、レヴィ」
 か細い声でシュテルがたしなめる。
 僕は力強く答えた。
「そういうシュテルは考えなさ過ぎ」
 シュテルが目を丸くする。
「馬鹿な事を。あなたよりも短慮ではありません」
「そういうことじゃないよ。いっつも合理的なことばかり考えて、なんていうか、疲れない?」
「疲れる? そんな概念、我々にあるわけが……」
「そう思いたいだけだよ。だいたい我々って言うけどさ、シュテル自身の意見はどうなの?」
「私は……」
 ……ためらってやがんの。
「……王に、従うだけです」
「じゃあ、どっちの王様につく? 誇り高き闇の王か、卑しくも強かな悪の王か」
「我々の王は、一人だけ……です……」
 ピキピキ、とシュテルの体からひび割れみたいな音が響く。
 僕はバルニフィカスを片手に、ゆっくりとシュテルに近づいていった。
「貴女に刺される止め。これほど屈辱的なものはないように感じます」
「僕は力のマテリアルだから、だから、正面からぶつかれば、君には負けない」
 そう言い、バルニフィカスの切っ先をシュテルの顎に付ける。
 覚悟を決めたシュテルの瞳の中で、僕はとっても冷たい瞳をしていた。
 その姿に、僕の中で矜持が疼く。
 そして、何を思ったのか。
 シュテルを。
 思い切り。
 抱きしめていた。
「レヴィ?何をしているのですか」
「バインド」
「これは抱擁です。バインドとは魔力による……」
「いいから」
 ギュ。
 パキパキ。
 ああ、やばいな。
 シュテルの魔力が、そろそろ限界かも。
 たったこれだけの光で……。
 いや、そもそも。
 このシュテルは、本当はまだ、未完成なんじゃ……。
「ねえ、シュテル、いい考えがあるんだ」
「あなたの考えは悪いものしかないように思えます」
 意地悪だな、もう。でもそこだけは…そう、やっぱり相変わらずって感じだ。
「しばらくバルニフィカスの中で眠っていないかい? このままじゃ崩れて消えちゃうよ」
「……時期を見てあなたの相棒を乗っ取りますよ?」
「それでもいいよ、シュテルが生き延びられるなら」
 僕は……にっこりと笑った。
「レヴィ、あなたはどうしてそう……」
 すかさずシュテルの唇を人差し指で塞いだ。
 ギリギリなんだから、理屈っぽいの、もうやめてほしいし。
「ちょっと外の刺激に触れ過ぎたみたいだ。 まあ、王様から解き放たれて、際限なく強さを目指せそうだから悪くないよ、力のマテリアルとして、ね」
「レヴィ、やはりあなたも烈火の将達のように……」
 シュテルの声がか細くなる。
 僕はシュテルの口を掌でふわりと塞ぎ、バルニフィカスへ静かに命じた。
「バルニフィカス、しばらくシュテルを預かっていて」
 ……封印。
 心のなかでそう念じた時、なぜだろう。
 流れることをプログラミングされていないはずの涙が零れた。

 ◇ ◇ ◇

 涙を飲み込んでから、僕は膝が少しだけ崩れた。
 封印の反動だろうけど、フェイトからの魔力供給もあって少し休めば回復する程度のものだ。
 僕はフェイトの方を見た。たった一人の戦いだというのに、悪の王様と悪意に染まった将の二人を圧倒している。
 それは高速移動のなせる技だ。
 本来持っているソニックフォームの速度をアーマーが底上げしているような、そんな感じ。
 両手両足から、金色の大きな翼が一枚ずつ生えて、それが刃物のような武器として成り立っている。
「あれはIS……インヒューレントスキルなるものを赤い装甲が再現したものだ」
 セイン姉様……じゃないな、この物言い。王様だ。
 ていうか、胸から上だけ地面から生えているみたいで怖いんだけど。
「シュテルの捕獲、終わったようだな、大儀であった」
「捕獲じゃないよ、ちょっと休んでもらってるだけ」
「埋め込まれた下品な悪意を取り除ければいいのだが」
「残しておいてもいいかも。その方が少しは感情的になるんじゃない?」
「達者な口め、こうしてくれる」
 そう言い、腕を伸ばす。
 けれど、その腕は……なかった。
 代わりにケーブルが大量に見えた。
 王様は無言でその腕を地面の中へ戻した。
「うっかり王様」
「黙れ、うつけが」
 ため息をついてそう言うと、真面目な顔をして近づいてくる。
 ただし、地面から出てこずに。
「見たところあの装甲の力の底上げは持ってあと五分。うぬは回復次第援護に回れ。我は新しい騎士を呼び覚ます準備にとりかかる」
「新しい騎士……面白そうじゃん」
「ふふ、期待しておれ」
 そう言い、王様はちゃぷんと地面の中へ潜り込んだ。
「あと、ちょっと」
 手をグーパーして指先の感覚から全身の動きを測る。
 息は、あがってない。
「バルニフィカス、今の僕、どうかな?」
『Du bist stark.Als vorher』
 そっか、前より強くなってるか……。
 きっとシュテルがバルニフィカスの中で力を貸してくれているんだね……。
「あと二分、二分後にまた飛んでやる!」

 ◇

 ◇

 ◇

 指向性のAFMに仮想IS、AFMに左右されない擬似魔力を搭載したアーマー型……アリオンは恐ろしいデバイスを持っていたようだ。
 これはスカリエッティによって乱された彼女の時間から生まれた産物に違いない。
 それでも、それを逆に活かして、今という時間を大切にしている。それどころか、私を助けてくれている。
 なにより赤い装甲全てから、彼女のまっすぐな心を感じる。
 そのおかげで、正気を失ったシグナムとアギトという最悪の相手を厄介な二人と対等に渡り合えている。
 補助魔力による持久力の向上、アーマーによる超高速が生み出す反動からの肉体保護……どころか、パワーさえも上げている。
 それでもシグナムの装甲を貫けないのは、彼女を支配している闇の力のせいだ。
 アギトに一閃も浴びせられないのは、その力の元をを宿しているせいだ。
 現状、二人を融合させない事で精いっぱい。
『フェイトお嬢様、雷刃と星光の戦闘が終了しました。雷刃が星光を封印し、現在体力の回復を待っています』
 赤い装甲の管制プログラム……アバランチ・インジェクションが淡々と報告をする。
 正直、私は驚きを隠せなかった。アリオンとノアに言われてはいたけれど、まさかあの子が本当に協力してくれるだなんて……。
 否。安心はしない。
 星光を取り込んだことで本来の目的を取り戻し、こちらに背中から襲いかかってくる可能性だって捨てきれないのだから。
『このペースを維持すれば、五分しか持ちません』
 冷酷な言葉に、私はほんの少しだけ焦りを感じた。
 あと五分で、果たして何が出来るのか。
『フェイトさん』
 眠たげな声が割り込んでくる。このアーマーの主のアリオンだ。
『戦闘に集中したいと思うので、報告だけ聞いてください』
 その一言、嬉しいよ。
 なんてったって、油断は出来ないから。
『今、聖王教会の方に応援を掛けあっています。けれどもアバランチの動力がそこまで持ちません。そこで提案があります、繰り返しますから、よく聞いてください』
 ゆったりとした、けれどもポイントをちゃんと強調した見本のようなアナウンス。
『レヴィちゃんを……雷刃を取り込んでください。そうすれば動力源が彼女のコアにシフトして、フェイトさんの魔力も安定……事実上、フェイトさんの体力が続く限り、その武装のまま戦えます』
 あ、やっぱり最後の嬉しい報告しか聞こえなかった。
『繰り返します、雷刃を取り込んでください。…三分以内に』
 取り込むって言っても、あの子が果たして素直にそれを受けいれくれるかどうか……。
 ……。
 せめてシグナムを……墜とす!
 私はオットーが使っていたIS、レイストームを発生させ、大量のレーザーでアギトを牽制し、全力でシグナムの方へ向かった。
 弧を描いて背後へ回りこみ、後頭部を狙う。
 武器は魔力の塊を含んだ拳だ。
 そう……これはあなたがエリオに教えてくれたあの技だよ、シグナム。
「紫電一閃!」
 アバランチのエミュレーションの下、高密度に圧縮された私の魔力が右手を包む装甲に乗る。
 同時に、シグナムの頭を揺らし、ポニーテールと編み込みを散らした。
 ぐらり、とシグナムの体が倒れかかる。
 その瞬間、シグナムは身を反転させて私の喉を掴んだ。
「その技は一撃を浴びせた後に隙を作らない動きが必要だ」
 真っ赤に染まった唇の両端をあげ、冷酷な言葉を投げつてくる。
 それは無情にも続く。
「この時を待っていた。テスタロッサ、貴様から完全なる勝利を……貴様自身を得る時を……!」
「灼熱の略奪者よ、うぬはいったい何を……」
 思わぬ言葉といった様子で、黒に染まったアギトが恐る恐る近づいてくる。
「貴様もアギトに取りついたのが運の尽きだったな、そもそも貴様の体の主は……この私なのだからな!」
 ギン、と目を開き、アギトを睨みつける。
「な……何を……!」
「安心しろ、貴様の力ごともらってやる。アギト、融合だ」
「馬鹿な、うぬの命令ごときで我の意志は……!」
 そう言いながらも、アギトの体は引き寄せられる。
 そして、私と同じように首を掴まれ、そこから強引に抱き寄せた。
 二人の体から黒炎があがり、それがシグナムの元へ集まり、一つの大きな炎となる。
 幸いにも、私にその炎は届いていない。単なる魔力の現れなのか、熱さもない。
 やがて現れたのはJS事件の終盤で見せた、アギトとユニゾンインを果たした姿だ。
 バリアジャケットの上半分がなくなり、炎の翼をはやした、炎の化身のような姿。
 ただ、あの時と色が違う。
 黒い。
 先ほど解き放たれた真っ赤な髪はそのままで、騎士甲冑と炎の翼が、黒い。
「ようやくここまで来たか……さあ、テスタロッサ、このままお前も我が炎に染まるが良い……」
 言うが早いか、黒い炎が私を包み込む。
『危険です! この炎はリンカーコアを通して人の記憶を改竄する悪魔の炎です!』
 そうは言ってもアヴァランチ……これじゃどうしようもないよ……!
 私はシグナムの手を叩き、振り払おうとした。
 しかし力は先程までの比ではなく、微動だにしない。
 ああ、まるで胸の奥からバラバラになっていく感覚。
 シグナム、あなたもこうして書き換えられたの……?
 やがて抵抗する意志さえも砕かれ、視界が虚ろになになってくる。
 ……。
 その時であった。
 蒼い光がシグナムの腕に浴びせられた。
 瞬間、私は黒い炎から解き放たれた。
 同時に私は抱き上げられる感覚を全身で感じた。
「くっ……力の欠片無勢がッ……!」
 悪しきシグナムが邪悪な悪態をつく。
 力の欠片、もしかして……。
「闇が呼ぶ、血が呼ぶ、怨嗟が呼ぶ……悪を砕けと、僕を呼ぶ! 」
 私によく似た声が私らしからぬ言葉を気持よく叫んだ。
 そして気づく。
「レヴィ・ザ・スラッシャー!完ッ全ッ復ッ活ッ!」
 雷刃が……レヴィが、本当に仲間になってくれたんだ……。

 ◇

 ◇

 ◇

 さあ、セインよ。お前がレヴィは目覚めたぞ。
 このまま眠っているだけで終りか?
 我がうぬの体を使って加勢してやろうか?
 それとも、我が力を全て与えてやろうか?

 ……どれも……お断り……だね……。
 けどさ……ちょっとだけ力……貸して……くれね?
 腕の……ハンデ……乗りきれるくらいで……いいから……。

 ……余の貸しは高いぞ?

 てめえが無茶して腕壊してくれたんだろうが!

 それだけの余力があれば大事ないな、うむ。
 では少しだけ貸してやろう。
 否、うぬへの借りをここで返そう。
 そして目覚るが良い。馬鹿なレヴィに加勢してやってくれ。

 ……お安い御用だね。

 ◇ ◇ ◇

 その瞬間、あたしの中で魔力がものすごい速度で巡りのを感じた。
 闇の力、だけれど何故か暖かい。
 これが……血の温もりってやつか……。
 おお、なんだかすげえ頭の中が沸騰してきた。
(耐えてみせよ、我が力に)
 バッキャロー。
 あたしの頭には、まだ若干の余裕があるんだよ!
 バカで短慮で可哀想な子ってボロッカスに言われるくらいスッカスカなんだよ!
 だからむしろ、もっと来いやぁあああああ!



もどる/次へ
目次へ
初版:2011/6/6

inserted by FC2 system