「どういうことだよ!」
 あたしは叫んだ。思いっきり叫んだ。
 叫びたくもなる。目の前で繰り広げられている光景はシグナムさんとフェイトお嬢様のガチバトルだ。
「まずは話を聞いてくれ」
 落ち着き払ってフーガが言う。
「俺も別働隊みたいなもんなんだ。民間のロストロギアハンターからロストロギアを守る仕事も掛け持ってる、管理局から許可もらって」
「そんで、その目標がフェイトお嬢様達が見つけたロストロギアってわけか」
「そういうこと。本局がいろいろ調べたら下手に人間が出るより肉体的に普通じゃない人間か高速移動が可能な魔術師が必要だってとこまでわかった」
 そう言い、右腕の人差し指をあたしの人差し指につける。
 ロストロギアの情報が電気信号が情報として即座に送られてきた。
「なんだよ、これ」
 観たことのない種みたいな鉄の塊が三つ視界に映った。
『ロストロギアと思われている『従欲の蕾』。自分のやりたいことに忠実なれる寄生植物型のロストロギアだ。元々は精神攻撃でボロボロになった味方を回復させるものだったらしい。軍事的について改良した結果、敵地にバラまくことで内乱を引き起こしたり、わざと謀叛を起こさせて処分の理由を作るとか、使い方は様々。そこに寄生能力と自律能力が加えられた試作品だそうだ』
 妹からの情報な、と付け足す。
 あたしは無理に付けられた指を弾いて小さく息をついた。
「それがあの二人についてるわけだ」
「ああ」
 フーガが憂鬱気味に応える。会って間もないけど、らしくない感覚はした。
「他になにかあるのか?」
 フーガは小さく頷いた。
「妹の調査では根を下ろした蕾に乗っ取られて、自ら種を産んで他人に植え付けるらしい。放置したら倍々ゲームで人間から自我は消えるだろうな」
 あたしは即座に納得した。
「そこでクローンで生まれたフェイトお嬢様と守護騎士プログラムのシグナムさんが派遣されたってことか」
「察しがいいな。少なくともシグナム姐さんは成長しても侵食が進んでない。夜天の書のプロテクトが強いんだろうな。フェイトさんもクローンであることが幸いしてるのか、はたまた精神面が強いのか、肉体への侵食が過去の事例よりも明らかに遅い、というより停止している」
 つまりロストロギアは逆に二人の虜ってことか。
 なんとなく二人の顔をズームにして観てみる。むしろ闘うことに集中してロストロギアの侵食を抑えているようにも見える。
「で、これを解決してあたしに何のメリットが?」
「別に解決して欲しいわけじゃない」
 フーガはあたしの肩に馴れ馴れしく右手を置いた。
「一緒に探したいだけだ、お前が抱えている悩みの答えを」
「だからってなんでイキナリ修羅場なんだよ!」
「管理局の襲撃よりよっぽどラクだろ?」
「おまえっ!」
 さすがにムカッと来て思わず襟を掴み上げた。
 それでもフーガは悪辣な笑みで減らず口を叩く。
「やっぱ気にしてんだな……」
「そうやってあたしの頭ン中、視るんじゃねえよ……!」
 ぐぞ、目から冷却液漏れて来やがった……!
「なあ、セイン」
 フーガがポンと、胸ぐらを掴んでいるあたしの手に右手を載せた。
「ネガティブってるところ悪いけど、あの二人はそれ以上のことを背負っている。それでも、ああして身を削ってロストロギアみたいな脅威と日夜戦っている。それが出来るのは何故だかわかるか?」
 あたしは首を振った。
 ついでに冷却液も飛び散った。
「二人とも未来を視ているからだ、先を視ているからだからだ。セイン、お前のモヤモヤは自分の中の未来があやふやだからじゃないのか?」
「犯罪者に未来なんてあってたまるかよ」
 そんな言葉を吐き捨てる。
 瞬間、あたしの中で電撃が走った。
 そう言えば。
 あの二人も元々は管理局にとっては犯罪者じゃねえか。
「だったら、なんであの二人は……なんで……」
「そんなこと知るか」
 そこまで考えさせといて、そんなこというかよ、こいつ。
 とりあえず一発殴ってやった。
 シャッハに見られたら怒られるんだろうなぁ。
 しかし、唇を切ったというのに、フーガは薄い笑みを絶やさずに言う。
「入口までは案内したぞ」
 その言葉に、あたしは……笑うしかなかった。
「で、あたしはここで何すりゃいい?」
 言いながら胸ぐらから手を離す。
 フーガは手をそのままに答えた。
「潜れ」
 真剣な眼差しで言われ、思わずISを発動した。
 地面に腰まで浸かったところで、頭上を何かが風のように飛んでいくのを感じた。
「うそだろ」
 風の正体を、あたしは見た。
 緑と肌色のミスマッチ、間違いない。
 シャッハだ。
 ただ、何故だろう。
 緑がやけに多い。
「ぐぞ、やられた……」
 そんな声と共に、血しぶきかあたしの視界を遮る。
 フーガの肩が斬られていた。
「チキショー!」
 あたしはディープダイバーを使ってこの場からの撤退を余儀なくされた。

 ◇

 ◇

 ◇

 あそこからどのくらい逃げたのか。
 あたし達は森の中にいた。
 不思議なことに移動中にフーガの傷はすっかり塞がっていた。
 問題はこいつが眠りっ放しということだ。
 デバイスかなんか持ってねーかな……通信とらねーと。
 このメカニカルな腕時計なんか実に怪しい。なんて思っていたらデバイスの方から声をかけられた。
『通常通信は敵にバレるかもしれないよ、セインちゃん』
「おっしゃると通りだ」
 あたしは時計から聞こえた声に従うことにして、とりあえず両手を上げた。
 つーか、バイクと同じ声?だとしたら、ずいぶん凝った作りしてるなぁ、バイクと同期させるとか。
『ボクはフツノミタマ。キミを強引に連れてきた人のデバイスだよ。面倒なことに巻き込んでゴメンね、マスターに代わって謝るよ』
 デバイスにしては人格しっかり出来てるなぁ。あたしより修道騎士向いてるかも。
『今、マスターは傷の回復のために眠ってる。そういう種族なんだ。多少の肉体の損傷なら眠れば治る。もう三人しか残っていけど』
「絶滅危惧種がロストロギアを探すなんて、シャレてるじゃん」
 つーかドクター、そんな絶滅危惧種使って人体実験してたのかよ。
 今日一日のインパクトある情報量、半端ないな……あたしの回路、焼け付くんじゃないかな。
 いや、焼き付く前に事件に巻き込まれて死にそうな予感。
『なんだか悪い夢を観ているって目をしているね』
「あ、やっぱりわかる?」
『仮にも保護者に襲われたんだし、仕方ないよね』
 やっぱり見間違えじゃなかったのか。
『シスターシャッハも蕾にやられたみたいで、オマケに中身は普通の人間だから侵食も早い』
「外す方法とかないのか?」
『管理局とフーガの所属しているチーム、双方で調査中』
 だろうなぁ。
 あったらシグナムさんとフェイトお嬢様の件、解決してるだろうし。
『ただ、対抗出来るのは戦闘機人かフーガみたいな回復能力のあるタイプ。管理局が打ち出した「移動能力に優れた人材で確保」という案は見事に外れ』
「チキショー、じゃあ本局の判断ミスでシャッハは……」
 あたしは地面を殴りつけた。
 ふと見えた袖はズタズタだった。
「そのミスを帳消しにするために、俺も投入されたってわけよ」
 軽調子な声が耳に障った。
『フーガ、傷は浅かったみたいだね』
「ああ、種付けもなかったから、まだ間に合うかもな」
「お前、ちゃんと説明しろよ!」
「イヤだね。推測とか想定を伝えて勘違されるくらいなら、勝手に動いてもらった方がいい」
「バカにすんな!」
 とうとう出た腹の底からの怒声。
 かなり久しぶりに出した気がした。
「あたしだって見習いの新人でも、聖王教会のシスターだ!しかも作戦行動なんざ物思いついた頃からやってるっての!」
「……そうか、そうだったよな」
 あたしの激昂にそう応えると、フーガは物憂げに頭を下げた。
「すまない。どこかでお前を子供扱いしていたみたいだ」
 素直に謝られた。
 調子狂うぜ……。
「……で、どうすんだよ、この先」
 リセットの意味も込めて訊ねる。
 するとフーガは右手を突き出し、指先のカメラを見せ付けた。
「……なるほどね、それなら言葉も時間もいらないな」
 あたしも指先を伸ばして応える。
「頼むぜ、フーガ兄さん」
「こちらこそ。『シスター』セイン」
 言葉を交わして指先が重なった瞬間、妙な絆が生まれた。



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初版:2011/07/19

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