デバイスのフツノミタマ曰わく、シナツ式の戦い方は技術よりも心得にあるという。
 ずはり、神人一体。
 神は自然、人は自らの深い心根を差すらしい。
 戦闘機人のあたしでもどうやらその心根は存在するようで、フツノミタマはその入口までデータとしてナビゲーションしてくれた。
 それらを通じて得た結論は、これだ。
「なるほどな、結局、我に振り回されるなって事か」
『そう、過ぎる自我は時として自分すら裏切ることもある。だからといって断ち切ると人ではなくなる』
「ありのままを受け入れて、取り込めってことか」
『飲み込みが早いね、さすがはマスターがを目をつけた未来の騎士だ』
「騎士セインか。悪くない響きだけど、あたしゃシスターとしてみんなから愛されたいな」
『うん、そうやって未来は広がるものさ。ほら、そろそろ執務官が牽制を始めるよ』
「おーらい」
 あたしは眼下で間もなく始まるフェイトお嬢様の戦いを、シグナムさんと並んで観ることにした。
「この後どうすればいいと思う?騎士セイン」
 したり顔で言われたので、あたしも負けじと自信たっぷりのニヤリ顔で答えた。
「さあ?でもトドメは騎士シグナムのファルケンが最適でしょうね」
「そのためには急所を狙わなければなるまい?」
「あたしが探しますよ。取り込まれても所詮機械。ディープダイバーで逃げられます」
 体力もばっちりだし。
「特捜六課、実際のところはどうなんだ?」
 どうやら騎士シグナムはリーダーらしく他の意見も取り入れるタイプのようだ。
『特捜六課、情報戦略担当のセレナです』
 おお、あたしと同じ髪の毛の色した人が現れた。ただ、目つきが大きい割に真面目そうな鋭さを持ってらっしゃる。
 ……シスター・シャッハタイプだな、きっと。
『一見、蕾が成長したように見えますが実際は蕾を包むように外壁が作られていっているタイプです。ロストロギアとされるほどの危険度がない所以かもしれません』
 まあ、むしろあそこまでになったのはウイルスのせいだしねぇ……つか、後々改変されてロストロギア認定食らう可能性もあるわけか、夜天の書みたいに。
『中でフーガ副隊長がその蕾を握ってるみたいですね、シスター・シャッハも取り込まれておりますが、副隊長がバリアを張った上ですので無事のようです』
 あいつなにやってんだよ!
 いくら頑丈だからって、無理しすぎだろ!
『それと保険として通信が切れる直前にシスター・セイン宛てに送られたメッセージを伝えます』
「成長したな。あいつめ」
 騎士シグナムは少しだけ嬉しそうに頬を赤らめた。レア画像なのでアイカメラで撮ってやった。
『これで結果的に最終フェーズの5だ、決めてくれ』
 フェーズ5、か。
 蕾の殲滅もしくは確保。
 それも管理局の実力者と一緒に。
 これならば失敗するわけがない。
 するとすれば、あたしに慢心があった場合なんだろうけど……なるほど、そのためのシナツ式の心得か。
「騎士シグナム、ここで魔力を溜めていてください。あなたの正面に欲望の蕾、打ち上げます!」
「ああ、いくらでも待ってやる」
 その言葉はあたしの背中を思い切り押した。
 あたしはフツノミタマから付与されていた飛行魔術……もとい風の力を切って、機械植物の中に飛び込んだ。
 入る直前にフェイトお嬢様と目があった。
 何本もの蔓と化け物の口に襲われているっていうのに、優しい笑顔を向けてくれた。
 勇気とか根性とか元気とか、そんな気持ちだけじゃない。
 妙なプレッシャーから解放された、そんな感じがした。
 そう、ここから先は、あたしがあたしであるために、あたし自身に騙されず、誤魔化されず、逃げずに戦うんだ……!
「サポート頼むぜ、フツノミタマ」
『うん、騎士セイン』

 ◇

 ◇

 ◇

 中に入ってみると意外なことに無機物と有機物が入り乱れていた。
 恐らく周りの木とか吸収したせいだろう。お陰で障害物を避けながらの救出劇となっている。
 まるで海底遺跡の調査だ。ドクターのところにいた時にもチラっとやったような気がしないでもない。
 うっかり曖昧なラインを無理やり入れば体力も減るし、思った以上にハードだ。
 おまけに蔦が成長してるせいで、まるで襲いかかってくるように邪魔になる。
 しかも熱感知なんざ出来やしねえ。
(フっちゃん、お前のマスターの場所、わかるか?)
『中央がぽっかり空いてる。多分、結界かなにかを張った場所だと思う。しかしフっちゃんと言われたのはキミで3人目だ。少しは神機を敬って欲しい』
(そいつぁゴメンね、フっちゃん)
『ふふっ、キミならトモダチが出来たみたいで逆に嬉しいよ』
 人間くさいデバイスだこと。
 ……人のことは言えないか。
『キミの適性術式は水みたいだ、最適化しよう』
 フっちゃんがそういうと、装甲と棒が青く染まった。
(植物相手に水って大丈夫か?)
『水は時に鋼も切り裂く。形がないからこそいろんな形を得られる』
(なるほどね)
 と、わかったようなふりをして、半信半疑。
 力を与えられても、自分でどうにかするしかねえもん……ってな。
 やがてあたしは中心部と思われる空洞にたどり着いた。
 緑と鉄の銀が入り交じった空間は思った以上に広くて、ほのかに花の香りがした。
「こいつぁ……」
 神経ガスの一種か、並の人間だったら一溜りもないぜ……。
 キョロキョロと辺りを見回していると、三角錐の結界に守られたシスター・シャッハを見つけた。
 ぐったりと横たわって、立っていられないって感じだ。
『あの結界は一族の中でも強固なものだ。騎士シグナムの斬撃さえも防ぐ。先にマスターの救出を』
「オーライ。で、そのマスターはどこだ?」
「こっちだ、上、上」
 右手で天井でぶら下がってる。
『やあ、マスター。いいカッコしてるね』
「フっちゃん、言ってる場合じゃねーんだよ。あとちょっとで体が取り込まれそうだ」
「そりゃまずい」
 フーガの言葉に反応して、あたしは思わず飛んだ。
 視線の高さが合う。すげえ青い顔してやがる。
 けれど目はしっかりとあたしの変化を捉えていた。
「水か、ちょうどいい。まずは俺の腕の周りからデカブツの肉を削ぎ落しててくれ」
「つっても、こいつで出来るわけ……」
『水竜刃で行こう。騎士セイン、イメージして。荒ぶる竜と鋭い剣を』
「オーケー」
 言われてあたしはイメージする。
 さっきのシナツ式の心得で、イメージ化もバッチリだ。
 荒ぶる竜……スターライトブレイカー……イーメイスカノン……。
 鋭い剣……レヴァンティン……ツインブレイズ……いや、むしろ……。
 やがてフツノミタマの先から刃が出てきた。
 それはまるで槍のような形をしていて、突撃するには丁度いい形をしていた。
 ただし、刃は水だ。それも恐ろしい勢いで回転している。
「素質あるじゃねえか」
 空いた左手で頭を撫でられる。よせよ、くすぐったい。
「そんなこと言ってるヒマ、ないだろ」
 そう言い、あたしはフーガの腕のスレスレに刃を通した。
 そして円を描いて切除を試みる。
 ゆっくりと、確実に。
「なあ、フーガ」
「なんだ?」
「アンタと一緒に仕事が出来てよかったよ。お陰でいろいろ気づけたことがたくさんあった」
 チラリ、とシスター・シャッハの方を観る。
 強固な結界は未だ健在だ。
「これからはちゃんと、シスター・シャッハと向き合いながら進めそうだ」
「……そいつぁ良かった」
 深く息をついて、目をつぶるフーガ。
 もう一度頭を撫でようとしてきたので、あたしはそれを払いのけた。
「レディに向かってそれはねーだろ」
「俺にとってはお前は妹みたいなもんだ」
「けっ、言ってろ」
 と悪態をついた瞬間、フーガの体が落下した。
 無論、肉片がついたままで。
 あたしは地面すれすれでキャッチして、ゆっくりと着地させた。
「今のあたしは騎士だ」
「ああ、実感した」
 ふう、とフーガは大きく息をついた。
「なんて言ってる場合じゃねえ。こいつ、こっちに近づいてきてる」
 そう言い、右腕を指さす。
 まだ赤い装甲は見えているが、間もなく肉体に辿り着きますって感じだ。
「蕾はこの手の中にある。俺の腕を切ってシグナムさん達に腕ごと処理してもらえ」
 ちょっと待て。
「腕を斬る? こいつはアンタとあたしを繋いでくれた絆だ、簡単に壊せるかよ」
 ベリスコープアイの使い方とか、いろいろと教えてくれた。
 何よりあたしらナンバーズの武装を生んでくれた兄貴みてーたもんじゃねーか。
「ていうか腕を切り落として平気なやつなんざいねーだろ!」
「だからといって、俺は欲望のままに生きたくはない。どうせ生きるなら、夢を追いかけて生き抜きたい。例えその途中で力尽きて、倒れても……」
「フーガ、お前……それはお前の本心なのかよ」
 あたしは訊ねた。
 その瞬間、肉体への侵食がとうとう始まった。
「ああ、そうじゃなきゃ、本気で妹分だと思っているお前に、こんな酷な頼みはしない」
 その言葉を訊いて、あたしはフーガの腕を肩から斬り裂いた。
 血しぶきがあたしに振りかかる。
 それはとても暖かくて、不意に冷たくなって……。
 人を傷つけるって、こんなにも苦しいことだったのかよ……。
『水陣!凍鬼!』
 心は一瞬だけ虚無になった瞬間、フツノミタマが叫ぶ。
 瞬間、切り落とされた腕と肉片が氷の塊に包まれて、その成長を止めた。
「ドクターに斬り落とされてつけられた腕をお前に斬ってもらえて、本当によかった」
 とても暖かい声。
 あたしは涙が出てきた。
 そこに雷神が光のごとくやってきた。
「セイン!フーガ!シスター・シャッハ!」
 フェイトお嬢様だ。コアがなくなって外が瓦解し始めたんだろう。
 それに併せて突っ込んでくるなんざ、さすが執務官殿だ。
「フェイト執務官、ミッション達成まであとちょっとです。申し訳ないですが俺とシスター・シャッハ、運んでくれませんかね?」
「その前に、腕どうしたの!?」
「腕は大丈夫ですから!とにかく運んでください! 俺も風使ってフォローします!」
 すげえ怒声。シグナム副隊長みたいだ。
 気圧されたフェイトお嬢様はそれに激しく頷くと、シスターシャッハを背負って、フーガの左腕を掴む
「騎士セイン、シグナムが待ってるから、お願いね!」
「了解!」
 かくしてあたしは真上に飛んだ。
 与えられた水の魔力の勢いで上に飛び込み、植物怪獣の中をディープダイバーで突っ込む。
 障害物?
 そんなもん、さっき出来た水の槍でぶった斬りまくりだもんね!
 やがてあたしは怪獣のアタマから飛び出した。
「騎士シグナム!」
『待っていたぞ、騎士セイン!』
 答えと同時に騎士シグナムの魔力光の輝きを感じ、私は手に持っていた蕾を握りしめている腕を放した。
 やがてやってきた魔力の風がそれを固定した瞬間、更なる高さへ上昇する。
 豆粒ぐらいになったところで、騎士シグナム最強の射撃魔法、シュツルムファルケンが炸裂した。
 炎の華が、いつの間にか星に染まっていた夜空の中で、大きく咲いた。
 私はその華に、ただ吐息をもらし、心に刻むことしか出来なかった。
 いや、むしろ。
 それだけで、今は十分だ。



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初版:2011/08/06

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