ディープダイバーで奥に向かうと、ギンガがフェイトお嬢様っぽいのと、フーガがノーヴェもどきと戦っていた。しかもアリオンさんとルーお嬢様っぽいやつと規模が小さいながら互いの味方を砲撃で支援を展開している。
 さてどうしたものか。
 恐らくスタミナ切れでこちらが負ける。ならば逆転の一手を作らなければならない。
 そのための材料が欲しいところだけど。
『妙だと思わぬか?セインよ』
「なんでしょ」
 ムラクモが疑問を提示する。
『なぜあの塵芥共はここで交戦をしている?奥にまだ道があるというのに』
「単に引けない状況なんじゃない?」
『だが、どうも奴らは手加減しているように見える。それ、見てみろ、万能なはずの頭が何の能力も使わずにフツノミタマが無理やり操るフーガと戦っておるわ。何か裏があるにしか思えぬ』
「……こりゃ、もっと奥に行ってみるしか無さそうだな」
『罠かもしれぬとわかっていても、か?』
「察しがいいねぇ」
 そんな感じで神機様の心配など無視して、あたしは更に奥へと進んだ。
 指先のカメラを地上に出し、戦闘区域が見えなくなるところまで進む。
 やがて行き止まりとなったところで、あたしは地上に這い出た。
 かなり暗い。
 あたしは目を暗視モードに切り替えた。
 同時に声が出そうになり、慌てて口を抑えた。
 見覚えのある女性が壁に埋まって胸像のように白く固まっているのだ。
 しかもその女性は……セレ姉と同じ仮面はつけられているけれど、このジャケットに髪型……間違いない、おしゃべり隊長のノアさんだ。
「うそだろ、なんだよこれ……」
「こいつは俺達が調査を打ち切った、伝説とされていたロストロギア『魂喰の機竜』の喉元だ」
 弱々しくもしっかりとした言葉でフーガが説明をする。
 同時に明かりもついた。思った以上に広い空間だ。頭の上では牙が上下に四本むき出しの竜の頭が岩から生えるように見下ろしている。
 それにしてもフーガ兄、どうやら勝ったらしいが、すげえボロボロだ。
「有機体と無機体をつなぎ合わせて作られた、お前たちの祖先のようなものだな。だが、肝心の有機体部分が壊死していたんだろうな、ノアの回復力を使って復活させようとしている」
「でもなんだってそんな……」
「こいつが本物なら俺達の故郷の星を海に沈めるほどの力を持っている。つまり星を壊したいわけのだろう」
 く、く、く、とフーガが笑う。
 悪寒がした時には、もう遅かった。
 喉を掴まれ、顔に手のひらを押し付けられた。
「私の勝ちだ、ナンバーズ」
 わずかに聞こえた声はフーガのものじゃない。
 敵の大将の、勝ち誇った声だ。妙な信号を含んだ微弱な電流が、顔に染み込む、ように入り込んで、いく……!
『六の字、思考波が乱れておるぞ!』
 わかってる……負けてたまるかっての!
 ここであたしがやられたら、どうなる?
 でっかい兵器の中枢にディープダイバーで入り込んで、徐々に一体化して操作をする……ですよね、ファウストさま?
 って、なに言ってんだよ、あたし!
 このままじゃあたし、セレ姉と同じに……!
『六の字、しばし堪えよ!』
 えっ?と、疑問符を口にする前に、ムラクモは行動した。
「うえあぁああああ!?」
 ブレードトンファーから発生した強烈な電圧があたしの全身をズドンと駆け巡った。
「くあっ!」
 ファウストが思い切り弾かれ、地面で身悶える。たしかに今のは機能がおかしくなるレベルの電流だ。
 あたしも少しくらっと来たけど、ファウストの手を伝って電撃が逃げたお陰か、なんとか立っていられた。
「ファウストお姉さま!」
「ファウスト様!」
 ニセフェイト嬢&ルーお嬢様もどきの登場か。
 フーガ兄にギンガとアリオンさんまで……。
 ディープダイバーも機能してくれねーし、こりゃ……積んだかな……?
「よくもファウスト様を……!」
「許さないわよ、セインちゃん……徹底的に身体に教え込んでアナタを奪ってやるんだから!」
 こええ、怒りに燃えてる声だ。
「そこの二人、私達を忘れたか?」
 突然聞こえる冷静な声にあたしは救いを感じた。
 紛れもなくチンク姉だ。
 そしてその隣には……傷だらけなのに勇ましく拳を構えるギンガがいる。
「うそ!? 確かに機能を停止させたはずなのに!」
 偽フェイトお嬢様が驚きの声を上げる。
「フーガくんが最後の力を振り絞って回復させてくれたのよ。今頃アリオンがセレナと一緒に脱出させたでしょうね」
 特捜六課のフォローっぷりすげえな。さすが奇跡の部隊を裏で支えてきた人らだわ。
「くっ!」
「無駄だ」
 偽ルーお嬢様ことレフティが銃撃を試みた瞬間、チンク姉のラプトルデトネイターが炸裂し、それを阻む。
「お前達は私達の試作品だ。故に手の内も知っているどころか、日々の精進を怠っているつもりもない」
「なにより守りたいものがあるから、だから負けないし、負けられない」
 二人はあたしの方を見て言ってくれた。
 チンク姉……ギンガ……。
 あたし泣いちゃうぜ?
「ならば我々には創りたい世界がある……!」
 ファウストがよろよろと立ち上がりながら言った。
「貴様らのように、我々の姉妹達のような犠牲を美化する世界など反吐が出る!」
「偽善と作為に満ちた矛盾だらけの世界を……」
「それを生む根元から破壊してやるんだから!」
 そう叫び、ライティが嵐のようなレーザーをバラまく。
 だけどチンク姉が脱ぎ払ったコートがそれを防ぎ、さらにファウスト達の視界まで奪った。
 コートを破り、ギンガが直進してきた。
 ライティとレフティに蹴りを入れて、あたしへの道を開いた。
「泣くだなんてみっともないよ。騎士セイン」
 うあ、やっぱり泣いてたか。
「まだその呼び方、はええてぇの……!」
 嗚咽混じりにそう言う。
 返事の代わりに二つのデバイスを渡された。
 セレ姉のミカヅチと、こっちの腕時計は……フツノミタマ……?
「アリオンが言ってた。セインなら三つの力を合わせられるって」
「なにそれ……?」
 背後であたしらをライティとレフティから守るチンク姉を気にしつつ、あたしは訊ねた。
「詳しくはデバイスに訊いて。私はチンクの援護に行くから!」
 そう言い、ギンガは後ろ回し蹴りで、鉄の拳で奇襲を仕掛けてきたレフティの脇腹へ鋼の右足を食い込ませた。
 後ろに目がう付いてるのか……いや、デバイスと完全に息があっているってこと、だよな……。
 いいよね、それ……何よりギンガとスバルのように、戦闘機人でも扱えるってのが証明されててサ!
「さあ、早く!」
 そういい残して、ギンガはチンク姉との共闘を始めた。
「で、どうすりゃいいんだ、ムラクモ」
『難しいことはない』
 すると先程まで眠っていたかのように静かだったムラクモが待機モードであるゴツい腕時計になって答える。 
 よくみりゃあたしもボロボロながら特捜六課スタイルのジャケット姿だ。
『我と反対の腕にフツノミタマを巻け。そしてミカヅチを高く掲げて唱えよ。詠唱するべき内容は……今回は特別だ、直接頭に叩きこんでくれる!』
 同時に、何かが頭から背骨にかけて入り込んでくる感覚を得た。
 いわゆる「降りてきた」というやつだろうか。
 多分、プログラムが機械化されている神経に染み込んだのだろう。 
 そしてしれは、あたしに清らかな言葉を熱く紡がせる。
「命は天の御魂なり!故に影のごとし形のごとし常に潔きあれ!天命一身!」
『うぬが御魂の輝き、しかと視たり! ミカヅチ! フツノミタマ! セインはこれより我らが力を伝える巫女ぞ!』
『かしこまりました』
『えっ、セインが? なんで? だってボクらと一緒に生きてた種族じゃ……』
『その話は後だ、塵芥! セイン、この力、受け止めよ!』
 ふっぅおおおおおおあああああ!?
 ぜ、全身にすげえエネルギーが流れこんでくる!?
 水が、風が、炎が、雷が、体の中を駆け巡ってりやがる!
 なんだよこれ、これが神機デバイスの本当の力かよ……!
 土も、星も、空も、夜も、なにもかもが……ぐうっ……!
『逆らうな、六の字! 常に潔きあれ!』
『命の理りを御魂で識るのです』
『そして力を得るんだ!』
 説教くさい神機デバイスどもに、あたしは思いっきり逆らった。
「てめえら、うるせええええええ! あたしはあたしだ! 天から生まれた魂だろうが、やっぱりあたしはあたしなんだよ! 心がなきゃ、てめえらの言うことなんざいちいち感じずに潔きあってるっての!」
 すると不意に、流れこんできたエネルギーが穏やかになる……というよりも、馴染んだ?
『そうだ、六の字、そうやって人はいちいち成長しなければならぬ』
『それが例え、機械が混ざった体としても例外ではありません。既に磨くべき魂はあるのですから』
『さあ、その第一歩としてボク達の力で、キミは翔べ!』
 ぬああああおおおお!
 こ、今度は体の外に強烈な力がまとわりつき始めた!
 セインさん、今、外から見たらどんな感じですかね!?
 すっげえ苦痛に歪みながら変身してるんじゃないですかね!?
 ほら、今度は二の腕と太ももの真ん中までしかないピッタリスーツで体がぎゅっと絞めつけられて!
 腰とか肩とか胸とか腕とか腰とかに白がベースで差し色が赤の装甲がガチンガチンと装着されてって!
 そこからぶわーって、光の翼やらなんやらが出てきて!
 そして額あてが!頭をきゅーっとしてくるぅううう!
「てめえら、人の体で遊ぶなぁあああああ!」
『ふむ、これで意識を失わなかったのはノア以来だな』
 ムラクモ、感心してんじゃねえよ!
 何はともあれ変身は成功したらしい。
 争っていた四人もこっち呆気に取られながらこっちを見ていやがる。
 あたしは……へそ曲がりのあたしは、思いっきり意地の悪い笑みを浮かべてやった。
「……へっ」
 そして適当に見得を切った。
「巫女騎士セインさん、ただいま見参!」
 いつの間にか右手に持っていた、やたら長い片刃剣を天に向けて叫ぶ。
「セイン、お前、なんだそれは……!?」
 コメントに困るなよ、チンク姉。
「あとで写真を取ってスバル達に見せてあげたいわ」
 ギンガ、ぜってーやめてくれよ。
 光のベールで覆われながらもあたし史上最大の露出なんだから。
「レフティ、あれどういうこと! あんな能力、私は訊いてないわ!」
「ライティ姉様、落ち着いて。まずはファウスト様と一時撤退を……」
「させねえよ!」
 片刃の剣を思いっきり縦に振る。
 すると瞬時に風の刃が生まれ、ファウストに近づこうとする偽物二人組の間を吹き抜けた。
「ひっ!」
「……くっ!」
 怯えるライティとは対照的に、レフティは謎の球体を握りしめて私を睨みつけてきた。
「ライティ姉様、ここは任せてファウスト様を!」
「え、ええ!」
 レフティの言葉にライティが従う。
 更にレフティの腕にはサーフボードみてえな武器……って、ウェンディのライディングボードじゃねえか! なるほど、球体がコアで、それがあたしらナンバーズの武装をコピーしてたってところか。
「タネは見切ったぜ、レフティお嬢様よ!」
 そう言い、刃じゃない方を肩に載せて思いっきりレフティの懐に飛び込む。
 スピードは……自分でも想像以上だった。
 柄がレフティの額に直撃した。
 当たった瞬間、行けると思ってそのまま叩きつけようと思ったが、レフティは衝撃を利用してバック転で距離を取る。
「来るなら来い……」
「参ったな……壊れてもしらねえぞ?」
「壊れたっていい。二人を守れるならば、それでいい」
 もうどっちが悪役だかわからない。
 けれどもこいつらは……少なくともあたしらの世界を命をかけて壊そうとしている。
 だったらこっちも、命をかけて叩き潰すしかねえだろ……!
『六の字、落ち着け! 本命はそっちではない!』
「あんだって?」
 ムラクモの声に、あたしは思わず不機嫌な声を出した。
 正直、この時はすげえ力を得て興奮していた。
 だから予測とか、想定とか、そういうのは全くできていなかった。
 いや。
 よしんば冷静だったとしても、想像すら出来なかった。
 なにせフォローについていただろうチンク姉とギンガが唖然としているくらいなのだから。
「セイン、ファウストとライティが機竜の中に……!」
「バカな……ディープダイバーは再現できなかったはずだ……!」
 ギンガの報告にチンク姉の驚嘆。
 それに対し、残されたレフティは薄く笑って答えた。
「自力では出来なくても、最低限コピーさえ出来れば……ふふっ……」
 ヴィン、とレーザーの集積音が鳴るのが聞こえた。
 あたしは反射的に身を舞わせ、光の帯を翻した。
 刹那に見えたのは光の双剣……ツインブレイズ。
 どうやら体は覚えていたようだ、本当のツインブレイズの使い手との修練の日々を。
 光の帯でそれを弾き返せたのは、正直予想外だった。
 武器を失ったレフティの膝に刃を突き立て、そのまま地面に縫いつけてやった。
 そして落ちてきたツインブレイズもどきを握り締める。
 ……本物より、軽い。
 あたしはすぅと息を吸い込み、それを地面にたたきつけ、そして踏み壊してやった。
 するとツインブレイズは形を失い、代わりに砕けた球体が地面に残った。
「くっ……!」
「これでてめえはただの機人だ」
 あたしはため息をついて剣を引っこ抜いた。
 そして、刃についたオイル混じりの血を見せつける。
「それでも命はある。これから先、お前はどうする?」
「……」
 答えは沈黙……だと思った。
 表情の薄かったレフティはまるで昔のあたしのように、薄気味悪くニヤリと笑って、そして答えた。
「ファウスト様のラストプランを見届ける……」
 その瞬間、この開けた洞窟が地響きに見舞われた。
  あたしはレフティを背負い、風の力でチンク姉とギンガの間へ瞬時に移動した。
 そしてそのまま大きくジャンプをし、ディープダイバーの力で空へと舞い上がった。
 待ち受けていたのは満天の星空だった。
 そして遠くに見えるのは、街の灯り……。
 ……壊させて、たまるかよ!


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初版:2011/08/22

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