作戦はこうだ。
 まず私が潜り込んで中にいる二人を引きずり出す。
 その前に説得だな。
 話してもダメなら力ずくで引きずり出す。
 チンク姉はセレ姉と協力してノアさんの救出。
 そして身柄を拘束次第、このデカドラゴンを破壊……と。
 シンプルすぎるけど、こうするしかない。
 そう、やるしかないのだよ!
「というわけで、行ってくらぁ!」
 セレ姉にチンク姉を預けてドラゴンの内部へ飛び込む。
 恐らく有機物と無機物が入り組んで多少面倒だろうと思っていた。
 けれど実際は違った。
 少々分厚い金属をくぐり抜けて入り込んだだけ。
 しかも中は空洞でかなり広い。
 おまけに全体的に眩い銀色だ。自ら発光してやがるし。
「なんだこれ」
『ちっ、あの竜かと思ったが、どうやら違うようだな』
『ええ、金属細胞の魔法生物……恐らくノア様の記憶をキーにして形にしたのでしょう。論理的に考えてあの竜がこの世界にいるわけがありません』
 解説さんきゅー、ムラクモにミカヅチ。
『たばかりおって。だが中枢を破壊してしまえば維持も出来まい』
「その中枢を探せばいいんだな?」
『検索します。その間に向かってくる敵の相手をお願いします』
「……ん」
 あたしは深呼吸をしてミカヅチの声に答えた。
 そして飛び込んできたノーヴェもどきの一閃を横へ避ける。
「やめろよ、ファウスト!もうお前らに罪を重ねてほしくない!」
「黙れ、完成品!我々の犠牲の上に生まれた戦闘機人が平和を語るな!」
 うえー、完全にふさぎこんでら。
 それでもあたしは説得を続ける。
「だからこそ気付いて欲しいんだよ、お前らでも世界は受け入れてくれるって……」
 言いながら近づく。
 ファウストは後ずさりしながら反論した。
「受け入れて何になる?自分を殺せというのか?いや、戦闘機人として生まれてきたことを忘れて修道女などやっている貴様が吐く偽善、反吐がでる!」
 ……かっちーん。
 あたしは思いっ切り舌打ちをした。
「忘れてたまるかよ……だからこそあたしは世界を受け入れたんだよ。結局、あたしを生んでくれたのは、今の世界そのものだからよ!」
『……わかってるじゃん♪』
 フツノミタマがこっそり肯定する。
「だとしたら……私はこんな世界に生まれたくなかった……!」
 ……泣いてる?
 ナンバーズの試作機が、泣いている?
 いや、不思議じゃねーか。
 そもそも人間だもんな、素体……。
「わかるか?破壊とし再生を繰り返していく姉妹の姿を見届けてきた私の想い……そしてお前たちの基礎が出来て破棄された……この孤独……!」
「そんな理由で壊すってんなら……あたしは全力で守ってみせる」
 そう。
 命を懸けてでも。
 けどその前に、一つだけ。
「一つだけ伝えさせてくれ」
「……良いだろう」
「レフティはあたしらが保護した。今ごろメンテナンスされてんじゃねーかな?」
「……っ!」
 一瞬、安心した表情を見せた。
 はい、隙ありィイイイイ!
 あたしはムラクモの力でファウストとの距離をゼロにしてフツノミタマが増幅してくれた肘鉄と膝蹴りの嵐を叩き込んだ。
 ぐらりと倒れたファウストの延髄に魔力を込めた踵を落とし込む。
 さすがにこれならばブラックアウトしてくれんだろ……と思ったら、ファウストの体が銀色の固まりになってドロリと溶けた。
「やると思っていた、お前の能力をコピーしてから」
 背後から声が聞こえた。
「卑怯などとは思わん。最善の策だ」
 いや、後ろだけじゃない。
「だからこちらもそれなりの手段を使わせてもらおう」
 四方八方……大量のファウストが現れる。
 しかもファウストの姿から……多分、ライアーズマスクか液体金属の特性だろうな、あたしの姉妹たちの……ナンバーズの姿になりやがった。
 形だけとはいえ、今からやり合うと思うと、ちょっち辛い。
 けれどあたしは……ナンバーズ一のひねくれ者のつもりだ。
 そうじゃなきゃ……妹たちからもっと尊敬されてるってーの!
「おもしろいじゃねーか!」
 飛びかかる偽ナンバーズを気合いと共に生じた魔力の風で吹き飛ばした。
 同時にミカヅチが報告する。
『中枢攻撃よりもこの生命体を無力化する最適な方法を発見しました。ノア様の救出が終わるまで持ちこたえてください』
 だってさ、チンク姉!セレ姉!
 外はよろしくな!

 ◇ ◇ ◇

 入電したセインの声を聞き、私は深呼吸をした。そして竜の喉元にチンクさんと共に近づく。
 鱗の一つのようにごつごつになっているノアを発見した。
『生命反応、あります』
 アバランチが報告する。
 私はほっとして、ノアの左頬に触れた。
 その時だった。
 ノアの手が伸び、私の右手首を強く握り始めた。
 装甲がなかったら間違いなく折れていた。
 証拠に、握られている部分からミシミシと音がしている。
「ノア、やめて」
 私は務めて冷静に答えた。
「やめない。ファウスト様の命令だから」
 赤い瞳で私を睨む。
「ここにいることが私の使命。ここにいることでこの竜の体が安定する。そして近づくものには……」
「寝言は言いから」
 空いた手でペチンと頬を叩く。
 やってからしまったと思った。
 正直、いつもなら「ふぇーい」とか言って拗ねるところだ。
 けれど今のノアはいつものノアじゃない。
 右腕にかかる負荷が強まるのを感じ、私は左手で電撃をまとった拳を振り抜いた。
 なんのためらいもなく。
「かぁっ……!?」
 さすがのノアもこれには耐えきれず、私の腕を離す。
 私は距離を置いて作戦タイムを取ることにした。
「チンクさん、ラプトルデトネイターをゼロ距離でノアの周りに配置して物理的に外しましょう」
「そうは言うが時限爆弾のように一斉に爆発させるのは……」
「私の能力で可能です」
 そう、タイムエスケーパーで時間の流れから外れて、ラプトルを仕込む。
 そしてエスケーパーを切った瞬間に爆破して、露出したノアの体を竜から切り放す。
 問題は。
 二人分のタイムエスケーパーで私がどれだけ消費するか。
 ……いや、今はノアを切り離せればいいか。
 それに……。
 ……フーガがアバランチに補充してくれた魔力もあるし。
 私は意を決して、タイムエスケーパーを起動させた。
 世界が灰色になり、時間が止まる。
「……先ほどセレナがやったように大量に展開すればいいのだな」
「ええ、ナイフに力を込めて指定する箇所に刺して、手を離してもらえれば通常の時間に戻されます。これを繰り返せば……」
「地道な作業になりそうだな」
「けど、体力は使います」
「ああ、地道の仕事がいかに大事かは身にしみてわかっている」
 チンクさんは私の耳元で優しく微笑んだ。
 私も思わず微笑んだ。
「……チンクさん、今度一緒にお茶でもどとうですか?」
「私でよければ」
 ……気持ちが、繋がった。
 私はゆっくりとノアに近づき、チンクさんにラプトルデトネイターの仕込みを始めてもらうことにした。
『セレナ様、余力を残すならば三分が限界です』
「そんなの、どうにでもするよ……!」
 いつの間にか出てしまったフーガの口癖。
 けれどそれが心地いい。
 繋がっていると、思えるから。

 ◇ ◇ ◇

 どぅっせいあああ!
 フツノミタマから与えられた八尺棒と付け焼き刃な棒術のプログラムでなんとか身を守っている。
 防戦一方だなぁ……どうにかならないもんかな。
『六の字、我はいいことを思いついたぞ』
「くだらない案だったら却下な」
『この中を水で浸す』
「却下」
『悪くありません。相手は金属ですから身動きは取れないでしょう』
「いや、ダメだ」
 偽ウェンディの腹に思い切り棒を突きながら、あたしは言った。
「やつらが液体金属だったらそれに見合うカッコに変化して戦ってくるだろ。例えば、潜水が得意なあたしとか」
 振り向きざまにノーヴェとトーレ姉の偽物を振り払う。
「今はバカ正直に他のナンバーズの姿で挑んできてるけど」
 上からのチンク姉とドゥーエ姉の襲撃を防ぎ、顔面に棒の両端をブチ当てて吹き飛ばす。
「効果がないとわかったら、別の形になるだろうよ」
 そう言い、あたしは倒れていく姉妹たちが蠢き、一つになっていくのを見た。
 そして現れたのは……とても巨大な銀色のドクター・スカリエッティ……あたしの、あたしたちナンバーズの、生みの親……。
「くっ」
 邪悪な面させやがって。
 世間じゃドクターは悪人だけどさ。
 そうさせたのは世間だろ、世界だろ。
 ドクターはその汚名を受け入れてでもあたしらを生み出して、何かを証明したかったんだ。
 お前らアンダーズからの恨みもきっと飲み干すだろうよ。
 だから、さ。
「ドクターの代わりに、てめえらの嘆きはあたしが受け止めてやる!」
 棒をブレードトンファーに変形させ、風の力で全力で突っ込む。
「どうりゃああああ!」
 激しく回転する刃は近づく巨大な手を細かく切り裂き、最後に喉元へ突き刺した。
 あたし自身はディープダイバーで透過させながら。
 やがて首は切れ落ちて、ついでにあたしは涙を流した。
「躊躇わない……だと……!」
 どこからかファウストの驚く声が聞こえる。
 あたしは、せせらわらってやった。
「悪役は得意なもんだからな」
 その直後だ。
 ミカヅチが待ちに待っていた合図を鳴らした。
『騎士セイン、ノア様の救出が完了しました』
「よっしゃあ!」
 あたしは気合いを込めて、銀色の床に両手を押し付けた。
「何をする気だ!」
「液体とは言え金属だってんなら……これは効くぜ……!ミカヅチ、放雷で金属全体のネットワーク把握!」
『了解』
「フツノミタマ、疾風でバリア展開!」
『オーッ!』
「ムラクモ、ディープダイバーの出力青天井! 限界越なんて越えちまえ!」
『神機たる我に限界などない!』

「よっしゃ、キメるぜ!

 ディープ・ディストラクタァアアア!

 全身からディープダイバーを構成する情報が放出され、ミカヅチを通して変換される。それはフツノミタマにより大幅に増幅され、ムラクモの力をもってコーティングされた。
 そして無機物透過能力を応用して生み出した無機融解能力が竜の全身を駆け巡る。
 何が起きるかって?
 金属細胞が不安定になって、バラバラになるだけさ!
「これがてめえらへの天罰だ! 罪はあたしが受け取ってやる!」
 私は叫んだ。
 まるで野獣のように、感情剥き出しに。
 さあ、相手は緩んだぜ!
「セレ姉!チンク姉!ぶちかませぇええええ!」
『『了解!』』
 その瞬間、鋼の龍を大量の爆撃と魔法光が貫き、消し炭になるまで瓦解していった。
『いかん!ミカヅチ!フツノミタマ!セインに結界を!』
 ムラクモの命令に従い、三体の神機デバイスが風と水のバリアを張る。
 安全地帯となった場所で、あたしはファウストとライティの姿を探した。
 焼け焦げた二つの戦闘機人のフレームが無惨にも落下していくのを見た。
 あたしは泣いた。
 こんな形で終わりだなんて。
 もっと考えりゃ救える、手段があったろうに。
 あたしはこの悲劇を涙と共に飲み干すことにした。
 そしていつかあたしが成長して、本当に姉として慕われるようになった時、御伽噺のように語り継ぐんだ。
 あたしじゃなくて、別の誰かを主役に仕立てて。
 なんてしんみりしていたら。
『まずい、活動限界だ』
 はっ?
『すみません、計算し忘れておりました』
 あっ?
『まさかボクたちの方が先にガタくるなんてぇ!』
 ふざけんなぁああああ!
 ……このまま天に召されるのかよ、あたし!
 いや、それもいいか。
 罪は受け取ってやるって、言っちまったもんな。
 覚悟を決めて自由落下するあたし。
 けれど、それをしっかり受け止めてくれたやつがいた。
「よう、預かってくれてありがとな、俺のフッちゃん」
 ……フーガのやつ、美味しいとことりやがって。
 途端に意識が沈むのを感じて、あたしはそのままブラックアウトを受け入れた。



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初版:2011/09/05

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