目が覚めた。
 場所はわからない。
 多分、どっかの科学技術室かなんかだろう。
 なにやら男女が揉めている声が聞こえる。
「だーかーら!始末書は簡潔でいいんだって!」
「うるちゃーい! ノア隊長サマに逆らうなぁー!」
 フーガ兄とノアさんだ。
 なんかあたしとウェンディの小競り合い見てるみたいで懐かしいや。
「お前の書き方じゃリテイク出されるんだよ!」
「じゃあ書いてよ!」
「てめぇの勉強を兼ねてるんだよ! お前、隊長ならこう言うのちゃんとやれるようになれよ!」
「まあまあ兄さん。ここはコインで決めよう。表なら私が書く」
「……コインもちゃんと裏表あるな、いいだろう」
 すげー。
 特捜六課のアバウト感すげー。
「ではいざ……」
 ピン……とコインの弾かれる音がする。
 その数瞬後、ゴウッと突風が吹き荒れる音がした。
「ぐおああああ!」
 肉が壁にぶつかる音がした。
 ……フーガ兄、かわいそう。
「これで兄さんはしばらく起きない。さあ、ノアさん。今のうちに次の任務を貰ってきて。私達のお給料のためにも」
「ラジャー!」
 ……いやいや、いくら頑丈だからってやっていいことと悪いことあんだろ。
 あたしはフーガ兄の様子を見るために、ゆっくりと起きあがった。
 ベッドが三つあった。
 右にはチンク姉、左にはセレ姉。
 ……どうやら二人の姉はあたしより無茶したらしい。
「アリオン様、シスターセインの意識が回復しました」
 ルーお嬢様みたいな声が聞こえた。
 って、レフティじゃねえか!
「あ、アリオンさん、いったいどうなってんだ!」
「やあ、セインちゃん、おはよう。申し訳ないけどアバランチ、ムラクモと説明よろしく」
『かしこまりました』
 またお前か。
 便利だなー、お前。
『まず今回の事件の全容についてご説明致します。その前にムラクモ、まずはあの件を……』
『うむ』
 部屋全体から聞こえた声に、私の胸元に腕時計の姿でいたムラクモが答える。
『まずセイン、うぬはしばらく特捜六課で預かることとなった。我の試験運用が名目だ。3ヶ月程度だがな』
 いきなり寝耳に水な情報、ありがとうございます。
 シスターシャッハ、相当お怒りでしょうな、きっと。
『続いて今回の事件についてご説明します』
 入れ違いに上品な執事みたいな声が届き、目の前に映像が広がる。
 どれもこれも、目覚める前に経験したものばかりだ。
『まず、破棄した試験体ナンバーズを金属生命体が取り込んだことでアンダーズが生まれたことが、レフティの体を調査して

分かりました』
『その金属生命体の母体の復活に、試験体ナンバーズが利用されたということよ』
 ムラクモが付け足す。
『本来はシスターセインの能力を利用して母体活性化のために自らを一体化するつもりのようでしたが、我々の介入により様

々な変更があったのでしょう。維持のためにノア隊長のバイタルが利用され、我々の情報源としてセレナ様が操られたわけで

す』
「つまり……揃いも揃って謎の金属生命体に踊らされたってわけか 」
 あたしはチラリとレフてォを見た。
 ……どうみても人間だ、あたしらのフレームを液体金属が覆っているように見えない。
 けれどもあたしの高性能で可愛い瞳を通して見ると……なるほど、確かに臓器の一つ一つまで再現されているけど、間違い

なく液体金属で更生されている。
『結果としては魔法生物であり、ロストロギアではなかったものの危険性があったために処理。むしろ危険なのはセレナ様達

を操っていた仮面です。ノア隊長につけられていたものが見つかりませんでした。顛末としてはこのようなところです』
「そりゃしこりが残ったな」
 あたしはポリポリと頭を掻き、小さくため息をついた。
「電話させてくれ、シスターシャッハに声を聞かせたい」
「了解しました」
 レフティが深々と礼をし、アリオンさんの方へ向かった。
「あいつは、またどうして特捜六課に?」
『自分達の真実を知って、生きる意味を探したいそうだ』
 ムラクモがそう述べると、私はモヤモヤした気分になった。
「簡単にみつかりゃ、生きてる意味の半分がなくなるっての」
 そうふてくされると、ムラクモがせせら笑って茶化してくれた。
『ぶはは!うぬが人生を語るとはへそで茶を沸かせるわ!』
「うっせ。てめえらの影響だ」
 あたしは鼻を鳴らして、待機状態のムラクモを腕に巻きつけた。
 そして通信端末を持ってこちらに戻ってきたレフティの前に立ち、能面みたいな顔にデコピンを仕掛ける。
「なにされるんですか」
 硬い言葉だ。
 けどまあ、双子ほどじゃねーか。
 あたしはじっと目を見つめて、レフティに訊ねた。
「ファウストとかライティのことは、いいのか?」
「……よくはないです。けど、特捜六課の皆さんが建物の裏にお墓を作ってくださったので……」
『我の名の下にしっかりと旅立たせてやったぞ』
「黙ってろ」
 今しんみりしてるとこなんだから。
『うむぅ……』
 ムラクモはとりあえずいないことにして、あたしは話を進めた。
「こうして私のような未完成品を受け入れてくださるならば、ちゃんと対話していればファウスト様もライティ姉様も……」
 顔をうつむかせる。
 なんてこった。もはや人間じゃねーか。
 あたしは天井を観て、その鬱蒼とした表情から目を背けた。
「……ファウストは完全に金属生命体の支配下になってた。利用されちまったんだ。だろ?アバランチ」
『はい。レフティがこうして個を確立しているのも母体が消滅したためです』
「消滅?」
 あたしは首をかしげた。
 いやいや、どうみても崩壊だったろ、あれ
 しかしアバランチは迷わず肯定する。
『はい。お陰様で処理の手間もプロトナンバーズのフレーム確保だけで留まりました』
「それってさ、当然、セレ姉の大量射撃のせいだよな?」
 あたしは何故か念を押すように訊ねた。
 なんとなく、そう、なんとなく自分の背中に重くのしかかるものを感じたからだ。
『セレナ様の射撃は個体を崩壊させたに過ぎません。シスターセイン、あなたの発動したディープディストラクターが無機物

を原子レベルで……』
「アバランチ、しゃべりすぎ」
 アリオンさんがやんわりと止める。
 ディープディストラクター……なんつー恐ろしい技だったんだ……。
「あの、セインさん?」
 途中で置いてけぼりになったレフティが心配そうに訊ねる。
 あたしは唇を噛み締め、あぐらをかいてレフティの方を向いた。
「レフティ、お前はこれからは戦いとは無縁の生活、送ってくれよ。アリオンさん、頼むぜ?」
「大丈夫。レフティに悲しい想いはもうさせない。生みの親の弟子として、責任持つよ。さあ、レフティ。こっちにきて書類

の整理を手伝って。これも平和を守る大切な仕事だ」
「はい、マスターアリオン」
 ……アリオンさんの指示に笑顔を見せたレフティを見て、あたしは一安心した。
 ……やっぱいいな、こういうの。
 さて、遅くなったけどシスターシャッハに連絡を……。
「アリオンさん、教会のシスターシャッハと繋げられる?」
「ムラクモ、ちょっと頼むよ」
 どうやらアリオンさんはお忙しいらしい。
 代わってムラクモが通信網を開き始める。
 珍しく無言だ。
 やがて開いた通信ウィンドウにはシスターシャッハと騎士カリムの姿が映っていた。
『シスターセイン、元気そうで何よりです』
 まず騎士カリムが優しく声をかける。
「ご心配、おかけしております。なんかこっちに一時的に配属とか聴いたんですけど……」
『ノア隊長がどうしてもデバイスの運用試験をシスターセインで行いたいと言うので、許可しちゃいました』
 かるっ。
 騎士カリム、そんなノリで人事決めていいのかい?
「本当にいいんですか? あたし、まだ見習いなのに……」
『シスターシャッハも許可した理由、あるのでしょう? 直接お伝えなさいな』
『は、はい、一応、まあ……』
 おうおう、シスターシャッハらしくない歯切れの悪さだ。
『そこ、ニヤニヤしない!』
「ごご、ごめんなさい!」
 いつものシスターシャッハだ。
 しかもそれで調子を取り戻したのか、強い口調であたしに言う。
『シスターセイン。あなたは見習いです。だからこそしばらくそこでいろんなことを学ぶのです。そして視野をいっぱい広げ

て帰ってきなさい。そして私に伝えてください、あなたの経験したことや学んだことを……』
「かしこまりました、シスターシャッハ」
 シスターシャッハの真面目な態度についつい言葉が堅くなる。
 その後、シスターシャッハはクスリと笑った。
『そちらの任務で活躍した話は聞きました。何より無事でよかったです』
 ずきゅーん。
 あたしは顔が熱くなるのを感じた。
 シスターシャッハ、厳格な態度の後で見せる優しさ……ずるいぜ……♪
 だからあたしは、思いっきりひねくれてやった。
「なにかあったら逐一連絡しますんで、寂しがらないでくださいねー♪」
 そう言い、通信をぷちっと切る。
『うぬらしいな』
 ムラクモが偉そうに笑った。
「うっせ」
 そう言い放ち、あたしは別の話題を求めた。
「アバランチ、セレ姉とチンク姉、大丈夫なのか?」
『タイムエスケーパーの反動で眠っているだけです。間もなく目を覚ますかと』
 意外と安心出来る内容だった。
「そんじゃ、ゆっくり待つとしますかね」
 そう言い、あたしはベッドから飛び降り、上にあるラウンジへ向かった。

 ◇ ◇ ◇

 ……どうやらまた眠っていたみたい。
 理由はわかっている。
 タイムエスケーパーの使いすぎだ。
 確実な救出のためとは言え、予定時間をオーバーした上で魔力も消費して……一度、検査を受けた方がいいかもしれない。
 ノアにそれを伝えようと、私はゆっくり目を開けた。
 あたしと同じ髪の色をした少女がにっこりと笑っていた。
 その手には、甘いミルクの香りがするコーヒーがあった。
「おはよ、セレ姉」
「……セイン、ちゃん」
 どうしてだろう。
 不思議と涙が出てしまった。
「……ねえ、こういう時に顔見せるのって、フツー旦那の役目だとおもうんだけど、どう思う?」
 涙をごまかして、私は言った。
 我ながら、ひねくれものだなって、ちょっとだけ思った。
「フーガ兄ならノアさんと任務に出掛けたよ」
 そう言い、コーヒーを差し出す。
 私は体を起こして、それを受け取った。
「あの二人ってば、また私を差し置いて……」
「しょうがないよ。責任感じて行っちゃったんだから」
 そう言い、セインちゃんはため息を付いた。
「なんでもギンガさんが行方不明だって、例の仮面と一緒に……」
「はあ!?……んっ!?」
 あたた、コーヒーが鼻腔に入り込んじゃった……。
 まったくもう。
 あの二人ってばいつも詰めは甘いし、揃いもそろって抱え込むんだから……。
「セインちゃん、一緒に行きましょ」
「え、でもまだ魔力が安定してないって、アリオンさんが……」
「魔力がなくても出来ることはたくさんあるから」
 そう言い、私は強引にセインちゃんの手を引いた。
 これからたっぷり教えてあげるんだから。
 セレナ・ヴォルドールの流儀ってやつを。 



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初版:2011/09/06

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