スバルは飛び込んだ。
 隊舎の一角にある女性専用トイレへ。
 スバルは腹を押さえていた。
 真っ赤な顔をしながら。
 そのトイレは比較的小さく、3つの個室で構成されていた。
 呻きながら、扉へ近づいていく。
 一番最初の扉には、「水が出ません」と書きなぐられた紙が貼り付けてあった。
 二番目の扉には「故障中」と行書体で書かれたプレートが下がっていた。
 最後の扉は・・・鍵が赤く染まっていた。
 コンコンコンコン
 いつもは鋼をまとい、圧倒的な爆発力を生む拳で軽快に扉を叩く。
 コンコンコンコン
 マナーなどお構いなしの連打だ。
「入ってます」
 と、妙に渋い女性の声が返ってきて、スバルは思わず手を止めた。
「シグナム副隊長?」
「その声、スバルか」
 とても用を足しているとは思えないほど威風堂々とした声である。
「ちょっといいですか!緊急事態なんで!」
「戦闘機人でも腹を壊すのか」
 心底驚いた様子で、シグナムは言った。
「壊さないハズなんですけど、壊れました!」
「ふむ」
 その言葉を聞いて、シグナムは便座に座ったまま顎に指をのせて考える。
 ザフィーラ辺りが見たら笑い死にしてしまうかもしれないほど、チープな光景だった。
「さてはシャマルのクッキーを食べたな」
「は、はい! って、なんでそれを知ってるんですか!?」
「私も迂闊にも口にしてしまってな、かれこれ10分は力んでいるところだ」
「そんなにもですか!」
「まるで出産のようだぞ」
「そんな感想、いりません!」
「・・・したことあるんですか、とは言わないんだな、お前・・・」
 若干淋しそうに、シグナムは言った。
「す、すいませんでした! とりあえず、いったん休憩して、あたしに譲ってくれませんか? 他のトイレ遠いし、お互い収まるまでかわりばんこに・・・」
「却下だ、お前なら男子の方に行ける、行ってこい」
「その言葉、そのまま返します!」
「・・・お前、次の訓練でお前が倒した数字の眼帯のヤツ並にズタボロにしてやるからな」
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
 脂汗と冷や汗を交えながら、スバルは叫んだ。
「そこまで謝るならば良い考えをくれてやろう」
「なんですか・・・?」
 声を苦渋に震わせながら、スバルは訊ねた。
 どうやら間もなく出発のようだ。
「1番目は水が流れないと書いてあるだろう。思い切ってそこでしてこい」
「でも流さないのは乙女としてどうかと・・・」
「漏らすよりマシだろう。処理も手伝ってやる」
「は、はい・・・」
 諦めたように、スバルは一番目の扉へ飛び込んだ。
 ウォシュレット付の洋式だった。
 隊服と腰を下ろし、安堵の表情を浮かべる。
 そこに、新しい足音が外から響いた。
「なんや、ここまだ直ってなかったんか・・・」
 やや力のない声が、トイレの中に響く。
「他んとこ遠いしなぁ・・・すんませーん、ちょっとええですか?」
「その声、主ですね」
「ああ、シグナムか」
 暖かい声が聞こえて、はやては穏やかな息をついた。
「ごめんなァ、シグナム。シャマルのクッキー食べてもうて・・・ちょいキツいんや」
「少々お待ちください」
 ガチャガチャ
 カランカラン
 ジャー
 シュー
 テキパキとした音がトイレに響き渡る。
 40秒と経たないうちに、シグナムはドアを開いた。
「どうぞ」
「ありがとな。おおっ、消臭スプレーかけてくれるなんて、さすがやな」
「いえ、それほどでも」
「かんにんな、ちょっと落ち着いたらすぐに代わった」
「いいえ、気が済むまでどうぞ。私はいくらでも待ちますので」
「ありがとな、ほな遠慮なく」
 そういい、主は正常に作動するトイレへ入っていった。
「シグナム副隊長ォォオオオ!」
 怒声が、一番目のトイレから鳴り響いた。
「なんだ、スバル」
「あとで殴りますから! あたしが倒した数字の眼帯のコ並に殴りますから!」
「ああ、愉しみにしているぞ」
 ぼんやりとした声で答えたシグナムは、腹を押さえながら2番目の扉に背をもたれさせた。
 それは痛む腹をいたわるでなく、こみ上げてくる笑いを抑えるための行為であった。

あとがき
 この物語は半フィクションです。作者が実際に味わった経験に尾びれをつけて書き起こしました。
 どのスタンスかと訊ねられたら、その、シグナム姐さんです。
 最近、マジメな文章しか書いてなかったんで、底抜けにバカしてるものを書きたかった結果がコレです。
 笑えよ、ベジータ!
 2007/10/31 東牙


2版:2010/5/3

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