「眩しいな・・・」
 夕日を正面にした時、シグナムは鋭い眼をさらに細めた。
 緩やかな振動が全身を揺さぶり、眠気さえ感じてしまう。
 束の間の休息と言ったところだろう。それも、ごくわずかで儚い。
 隣には、フェイト・T・ハラオウンがいた。
 ハンドルを握り、やはり正面を眩しそうに見つめている。
「ですね」
 短い言葉を交わしあい、再び沈黙をする。
 今は任務の帰りだ。部隊長から聖王教会へ届け物があったのだ。その中身が大変重要なものだということで、ライトニング分隊のツートップが出向くこととなったのだ。
「・・・あの中身、なんだったんでしょうね」
 刻々と変わる道路の状況に視線を張り巡らせながらも、余裕のある声で、フェイトは訊ねた。
「主が言うには山吹色のお菓子だそうだ」
「ドラ焼きでしょうか?」
「・・・」
 軽いジョークをまともに受け止められ、シグナムは不機嫌そうに、隣の窓へ顔を向けた。
 流れる景色を見る目は、ひどく澱んでいた。
「疲れているみたいですね」
「最近、エリオとスバルが私にコンビで挑んできてな、訓練とは関係なしに」
「ああ、二人ともクロスレンジが主体ですから・・・ひっ」
 と、言いかけて、声に高めの歪みが生じる。
 膝をくすぐる感触が、それを生んでいた。
 フェイトはチラりと、ストッキングに包まれた自分の膝を見た。
 5本の指が愉快に踊っていた。
「ちょっとシグナム、やめてくださいっ」
 フェイトは困惑した笑みを浮かべながら言った。
「んっ、なにをだ?」
 シグナムは窓に視線を送ったまま答えた。
「運転中に膝を触らないでくださいっ」
「触っていない、くすぐっているだけだ」
「じ、じゃあ、く、くすぐらないでくださいっ」
「ならばどうして欲しいんだ?」
「どうもしないでくださいっ」
 シグナムの執拗な言葉遊びに、フェイトは顔を真っ赤にしながら答える。
 すると今度は満足したような笑みをうっすらと浮かべ、フェイトの横顔をじっと見始めた。
「・・・!」
 その視線に気づいたのは緩やかなカーブを越えたときであった。
 夕日がシグナムと重なる姿が、瞳の端に映っていた。
 逆光の中でも、シグナムはひたすらフェイトを見ていた。
「なにがしたいんですか・・・」
「お前、今日は化粧濃いな」
「してません、すっぴんです」
「プロアクティブか? ヒアルロン酸か?」
「あの、ちょっと黙っててくれませんか?」
 解釈しがたい単語が現れて、さすがのフェイトも声を曇らせた。
 冷たい反応に、シグナムは顔をシュンとさせた。
 気まずい沈黙が車内に流れる。
 非がシグナムにあるものの、根っから良い人のフェイトである。
 しばらくしてから、申し訳無さそうに口を開いた。
「もしかして、私、何かマズいこと言いました?」
「別に」
 ふてくされた風に、シグナムは答えた。
「それ、昔テレビで見たことがあります」
「なんだ、これは知っているのか」
 妙に気の入った声で、シグナムは言った。
「・・・あの、シグナム」
 その様子から何かを気づいたかのように、フェイトは訊ねた。
「なんだ、テスタロッサ」
「ひょっとして山吹色のお菓子って、なにかの比喩でした?」
「・・・今さら気にするな」
 強気の声で言い切り、フェイトを押し黙らせる。
 しかしフェイトも馬鹿ではない。
 別の方向から質問をぶつけた。
「で、結局、教会に何を届けたんですか?」
「知りたいか?」
 意味深な笑みで顔を歪め、シグナムは言った。
 フェイトは正面を向いたまま、頷いた。
「学業にいそしむヴィヴィオへ捧げるなのはの手製マフラーだ。誰にも見られないように作っていたらしいぞ」
 その言葉を聞いたとき、フェイトはハンドルを大きく回した。
 しかし、ハンドルはがっちりと固定されていた。
 手はむなしく滑り、シグナムの手にぶつかった。
「シグナム、何を・・・!」
「帰りはアギトと面会という約束だろう。それにさっきのは冗談だ。全く、これだけは予想通りの反応しかしないな」
 かっかっかっ、と大御所染みた笑いを上げそうな、含みのある笑みのまま詰め寄ろうとした時である。
 ガコン、と言う音と共にシグナムの座る座席が水平になった。
「むなっ!」
「そのまま大人しくしててください。出来れば二度と起きないでください」
 唇を震えさせながら、フェイトは冷たく言い放った。
 右手では細い指先が唇以上に震え、肘掛にある4つのボタンのうちの左上をカチカチカチカチ押し続けていた。

あとがき
 なんでしょうね。
 自分の中でシグナム・フェイト・スバルが妙に親近感をアンロックできないんです。
 故に現実っぽいことばかり思い描いてしまいます。
 すなわち身近に起こったことから話を膨らませるパターン。
 今回も運転しててふと思いついたことだったりするわけですが・・・。
 正直。
 そのままフェイトさんの体を悪戯し続ける展開でも良かった気がしました、これは反省。
 もしそっちの展開を望む声が多かったら、年の瀬辺りに裏の方にあげちまいます。
 2007/11/24 東牙


2版:2010/5/3

戻る
inserted by FC2 system