フェイトを後ろに、キャロ、ティアナ、エリオが立ち並んでいる―それは異様な光景であった。
 彼女たちがまとう防護服の白が緑に染まっているのだ。
 決して鮮やかではない、樹海のような緑であった。
「・・・やはりそうか」
『シグナム二尉、なにかご存知で?』
 ギンガが視線をそらさずに念話で訊ねる。
『おそらく以前、私とスバルが手合わせした魔法生物の類だろう。幸いスバルが機人だったお陰で、難無く対処できたが・・・今回は、いや、本当に面白くなりそうだ』
「面白くって・・・仲間が操られているのに・・・」
 スバルが眉をひそめて呟いた。それは誰にも聞こえず、緊張の空気へとしみこんだ。
「で、ヤツの特性は?」
 チンクが堂々と訊ねる。
「さあな、前に戦ったものとテイストがだいぶ違うようだ」
「シグナムの言うとおりです。下手に体を大きくせず、人の身に宿ることだけを考えることにしました」
 フェイトが意志の薄い声で微笑みながら言う。
「進歩したな。お前の体の主は無事なのか?」
「ええ、でなければ身体の掌握はしきれませんから」
 言いながら、わざとらしく金髪をかきあげ、宙に舞わせる。
「なるほど、本当に面白い種族のようだ」
「脆弱な種族である、ただそれだけです」
 そう言うと、フェイトはにやりと笑った。
「そうそう、完全に体を掌握するために必要なことがあるんです。・・・主の欲望を何かしら満たし、気持ちよくしたところで私たちの意識と一体化する・・・それだけですが、難しいんですよ?」
「そうだろう。満たされる欲望など、世に限りない」
 チンクが当然のように言った。
「ところが私の主は・・・いいえ、敢えて私といいましょう。・・・私の願いは意外と単純で、とても多くありました。そのうちの一つが・・・シグナム、あなたと戦い、完全に勝利することです。私自身もわかっていませんでしたが・・・」
「なるほど、では私が負ければお前はその似合わぬ緑のマントを一生羽織るハメになるわけだな」
 悠然として、シグナムは言った。
「そういうことです。あとはここで静かに暮らすか、人々の反応次第で『私』を広げるだけ」
「同一の意志を持つ、ということになるわけか、気持ち悪い」
 滅多に口にしないような言葉を、シグナムは吐き捨てた。
「だったらなんでティアたちを・・・!」
 怒りを含みながら、スバルが訊ねる。
 フェイトはやや見下したように笑い、答えた。
「シグナムに勝つには必要な駒だったからかな? ・・・それに、そっちも数が揃っていることはわかっていたから、頭の中、探ってね・・・」
「私はサシでも構わんぞ」
「そうですか。では邪魔が入らないように・・・」
 パチン、とフェイトは指を鳴らした。
 すると地面からモリモリと樹木が生え、あっという間に樹のドームを作り上げた。
「4VS4のチーム戦・・・刺激的な特別訓練になりそうだね、スバル」
「ギン姉までヤル気になるんて・・・」
「大丈夫、この気持ち、戦っている間にわかるわ、きっと」
 そう言い、ギンガはスバルに微笑みかけた。
「やるぞ、まずは小手調べだ!」
 微笑を止めず、シグナムはフェイトの元へ飛び込んだ。
 ほとんど初対面のチンクはもとより、普段のクールなシグナムしか知らないギンガもこれには驚かされた。
 その一瞬を突き、ティアナがスバルの背後へ、エリオがギンガの喉元へ、それぞれの武器を突きつけた。
「はやい・・・!」
 と、鋼鉄の拳を持つ姉妹が驚愕する。
 それを穿つように、冷静な声が二人を叱咤した。
「それは幻影だ!」
 チンクである。
 その声を受けて、二つの拳が幻影を振り払った。
 そして、背中を合わせて死角をなくす。
「じゃあ本物は・・・!」
「上よ、スバル!」
 ギンガの一声の直後、エリオが直上から落下してきた、鋭い一閃とともに。
 二人の合わさった背を裂かれ、二メートルの間が生まれる。
 ちょうどそこに、二つの光弾が打ち込まれた。
「うあっ!」
「きゃっ!」
 強烈な魔力が二人の脇腹を直撃する。
 それは機人である身を軽々と吹き飛ばし、樹の壁へたたきつけた。
「ふふっ」
 放ったのはティアナであった。
 ティアナは薄笑いを浮かべ、目の前に下りたエリオに銃を持ったまま腕を絡めた。
「さっきまで・・・いなかったのに・・・!」
「自身に幻影を被せて姿を消していたようだな・・・」
 身構え、唇の端を噛みながらチンクは言った。
「エリオ、次はそっちの眼帯よ」
「はい」
 従順に答えると、エリオは大きな槍を構え、ゆっくりとチンクの方へ近づいていった。
「・・・来い・・・!」
 両手を広げて前に構えると、チンクは大きく息を吐いた。

 ◇

 ◇

 ◇

 非常口から脱出を果たしたナンバーズたちは通常の廊下へ飛び出し、転がり込むように地下へと進んでいった。その先頭を進むのはディードである。突発的に動き出した彼女に、全員、ついていくしかなかった。
「なあ、おい。ギンガたち無視して勝手に動いて大丈夫なのか?」
 ノーヴェがぼやく。
「マジメっスねぇ、ノーヴェ。ま、生まれがどうであれ、自分たちに出来ることをやるっつー実践してるんすよ、ディードは」
「ギンガやティアナが言ってたアレ、か・・・」
 調子の良いウェンディの声に乗せられたように、ノーヴェは納得の唸りをみせた。
「ディード、こっちは確か・・・」
 ディエチが不安そうに訊ねる。
「僕たちの武器が保管されている・・・近く・・・」
 ディードの行動を察したオットーが答えを呟いた。
「ええ・・・あ、ここですね」
「ちょっと待てよ、来てどうすんだよ。武器持ち出して戦うってか? そもそも開いてるわけないだろ!」
 ノーヴェが激昂気味に指摘する。
 それもそうなのだ。ここは隔離施設・・・極端に言えば刑務所(というよりも少年院)のようなものである。そこへ収容された者達の備品は当然、厳重に管理されているのだ。
 幾重もの電気錠、そして魔力錠に守られたそこを前にしたノーヴェにとって、その叫びは当然である。
 だが他の一同はしらけたように、ウェンディに至ってはバカにしたような笑みを堪えながら佇んでいた。
「な、なんだよ・・・」
 戸惑い気味にノーヴェが訊ねる。
 そこに、妙に血圧の低い声が届いた。
「みんな、協力、サンキュー」
「セイン・・・?」
 不意に天井から現れた、水色の髪の少女に、ノーヴェは面を食らったように呆然とした。
「みんなって、おいセイン、どういう・・・ことだよ・・・」
「普段、おねーちゃんをバカにしてるから、バカにしてやっただけだよーだ。ちなみにロックはとっくに解除済み。ま、義理さえなければこんなもんだね、ふふーん」
 やや高い背から見下ろしつつ、セインは言い放った。
「たまには良い思いさせてあげようと思って・・・」
 と、ディエチ。
「面白そうだったから・・・つい」
 オットーが無表情で呟く。
「すみません、私は止めたのですが」
 言ってから、ディードが小さく頭を下げた。
「セイン、お前ぇっ!」
「まーま、ノーヴェ。その怒り、あいつらにぶつけてやるッスよ♪」
 ウェンディは軽く身をぶつけると、そのまま肩を組んで笑顔を赤色のショートヘアに近づけた。
「で、今後のことなんだけど、武装したら中枢地区とここを繋ぐ通路に向かえって、ギンガから思念通話あったよ」
「了解。セイン、ここからの指揮はオットーに任せようか、以前のとおり」
 ディエチはゆったりとした声でそう伝えると、真っ先に倉庫へと駆け込んだ。
「・・・いつも、どおり・・・」
 ノーヴェは複雑な表情を浮かべ、倉庫へ向かう姉妹たちの背を見つめていた。
 その背を、水色の髪の少女がそっと押した。
「私達が示すんだよ、スバルやギンガみたいに、生まれがアレでもきっちり前を見ていけるってことをさ」
「セイン・・・お前・・・」
 ノーヴェはほう、と息をついた。
「・・・きもちわりぃよ」
「そう言うと思った、チキショー」
 セインは分かりきったように苦笑してみせた。
 そして共に歩いていく。自分たちの武器を手にするために。

 ―やがて各々の武器を手に、六人の少女が立ち並んだ。着慣れた紫色の戦闘服を身に纏い。
「ディード、ノーヴェと先行して前衛。出来るならば根幹を見つけて。ウェンディは二人の支援兼盾。ディエチは僕の前で砲火支援。向かってくる敵を殲滅して。そして僕の結界が防衛ラインだ。セインは好きに動いてどうぞ」
 淡々と言いつつ、最後に薄めの笑みを浮かべて
「お前も言うようになったなァ」
 セインは暖かく微笑むと、自身の能力を発動させてゆっくりと床へ沈み、姿を消した。

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