―ゴウッ・・・
 まず飛び出したのは、意外にもシグナムであった。
 地面を滑るようにすれすれを飛び、フェイトの足元を狙う。
 そのスピードは勢いも含めてすさまじいものがあった。
 しかし、それ以上にエリオの速さが光った。
 ザシュ・・・、と、シグナムの突進にやや遅れてストラーダをフェイトの目の前に突き立てる。
 エリオにとって、それは串刺しを目指したタイミングであった。
 実際、スバルの眼には一瞬だけシグナムが背中から串刺しにされてたかのように見えた。
 だが、その錯覚もすぐに吹き飛んだ。フェイトの体と共に。
「なっ・・・!」
 チンクが唖然とする。
 冷静に見えて、なんという無茶をするやつだ、と、心の底から思っていた。
 何故ならシグナムが、その身をフェイトにぶつけていたからだ。
 ラグビーのタックルにも似た体勢は身軽なフェイトの体を楽に突き飛ばすどころか、そのまま押し続ける。
 いつしか樹の壁をぶち破り、さらには外壁も、魔法壁さえも破り捨てた。
 その様子を、その場にいた者全てが呆然と見ていた。
「あ・・・」
 一番最初に動いたのはギンガだ。
 手早く展開した光の道を用い、ローラーブレードを走らせ、鋼鉄の拳を構える。
 その先にいるのは・・・ちょうどそこへ着地したエリオだ。
「!」
 ギンガが慌てて拳を放つ。
 腰の捻りも魔力の練り上げも全てが甘く、いとも簡単にストラーダで受け止められる。
 さらにその背後から、魔法弾が四発、飛び出し、ギンガの頭上でブーメランに似た軌道を描いた。
「あぐっっっっ!」
 全てがそれぞれ四肢に命中する。
 さほどの威力ではないものの、動きを止めるのに十分な当て方であった。
「司令塔が違うのか!」
 チンクが片目を見開いて叫ぶ。
 どうやらギンガとチンクはフェイトが司令塔だと考えていたのだろう。
 それを耳にしたスバルは瞬時に判断した。
「なら、もう一人しかいない!」
 マッハキャリバーのサスペンションを生かし、高い飛翔でティアナの目の前に飛び込む。
「ティア!」
「スバル・・・!」
 弾け飛びそうなぐらい腰を捻り、重い一撃を刹那のうちに作り上げる。
 やがて引き絞られた鉄の右腕が鞭のごとき瞬発力で、ティアナの右肩を襲った。
―きっと気分が悪くなる・・・!
 スバルは感じるであろう親友の不快な感触を予感し、わずかに眼を瞑った。
 しかし、それは別の、何か硬い物を殴りつけたような感覚で開かれた。
 思うが早いか、スバルの右腕が不意に爆発した。
「うあああああ!?」
 一秒も満たない時間の中、押し寄せてきた様々な感情に振り回され、スバルは生まれたパニックを隠すことなく叫んだ。
「シューティング・・・シルエット・・・!?」
 スバルが戸惑いながら呟く。
「それにしては破壊力が・・・」
「魔力弾をシルエットにしただけよ」
 深緑の壁にもたれながら、ティアナが得意げに語った。
「スバル、お前・・・その腕・・・!」
 チンクが顔を真っ青にしながら声を出す。
 言われてスバルは自分の右腕を見た。
 しかし、見えなかった。
 あるのは剥き出しになった無機質なケーブルと、かすかな漏電であった。
「あたしの腕は・・・!」
 本能に任せて吹き飛ばされた右腕を探す。
 傍から見れば無様な姿でもあるし、生にしがみつく命の執念にも見える。
 しかし、それも間もなく終了した。
 ケーブルを目掛けて、無数の細い蔓が直結してきたのだ。
「うああああああああ!」
 二度目の絶叫。
 今度は戸惑いのない、単なる苦痛であった。
「すぐ良くなるから。次は・・・」
 ティアナはゆっくりと、ギンガとチンクを交互に見た。
「エリオ、まとめて相手してあげて」
「はい」
 返事が生まれた数瞬後、エリオの姿が視界から消えた。

 ◇

 ◇

 ◇

 シグナムは笑っていた。
 まさか咄嗟にとった行動が幸も不幸も届けるとは思わなかったのだろう。
「楽しいな、思い通りにいかないというものは」
「くっ・・・!」
 フェイトが悔しそうに深緑色の唇を噛む。
 その顔は海面に浮かんでいた。正確には肩から上である。
 一方、シグナムは海上に立っていた。・・・文字通り。
「久しぶりに全力でぶつかり合えると思ったが・・・まさか飛ぶ力が無くなっているとはな、私も思わず飛ぶのを忘れてしまったではないか」
 しっとりと濡れた桜色の髪が、それを物語っている。
 それどころか騎士甲冑も通常のものになっているではないか。
 通常の戦闘スタイルでドーピングした相手を見下す―まるで余裕を絵に描いたような姿だ。
「あーぶなかったぁ・・・」
 小波を見ながら、アギトがシグナムの顔の横で呟く。
 どうやら直前でユニゾンを解除した、と言ったところか。
「アギト、スバルたちを援護してやってくれ。私はしばらく楽しむ。いろんな意味で、楽しむ」
「ああ、ほどほどに・・・つか遊ばずにケリつけてくれよ?」
「・・・ああ」
 ぼんやりとした声で、シグナムは答えた。
 それに対し、妙な違和感を覚えつつも、アギトは全力で施設の方へと戻った。
「・・・さて、テスタロッサよ。アギトの言うとおり、決着をつけたいところだが・・・何故か躊躇っている、この理由、教えてもらおうか」
「直にそれすら考えられなくなりますよ、シグナム」
 緑色の唇をゆがめて、フェイトは淫靡な声で答えた。

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