・・・ここは・・・くらい・・・?
― よ、スバル。
・・・セイン・・・?
― 少しだけお前の中、いじらせてもらうからな。
・・・えっ、なに・・・。
― 大人しくしろっての。・・・この力、上手いこと生かせばお前の不具合ぐらい・・・。
・・・・・・うっ、いたたっ・・・!
― もう少しの我慢だ、おねーちゃんに任せとけ。
・・・あたしの方が先に生まれた、はずなんだけどな、多分。
― ・・・別にいいだろ、ホラ、もうちょっと・・・。
・・・うん、なんか、あったかい・・・。
― おし、これで不純物は取れたっと。
・・・ありがと、セイン。でもまだ体は・・・。
― そっか、なら・・・ちょっと試して、みよっかな。

 ◇

 ◇

 ◇

 ぶつかり合う炎の剣と雷の槍。
 にらみ合う鋼の意志と金色の光。
 牽制しあう爆撃と召喚術。
 自らの手札がそれぞれの敵と組み合ったのを見て、ティアナは眉をひそめた。
「素潜り女は・・・どこ・・・?」
 セインのことであろう。ティアナの視界・・・いや、この部屋自体から、いつの間にか姿が消えていたのだ。
 警戒をしつつ、自らの一部とも言える木々を伝い、場所を探る。
 しかし見えてこない。
「さっきみたいに、また虚を衝かれるわけには・・・」
 そう、呟いた瞬間である。
 ティアナは真上から熱源が飛び出してくるのを感知した。
 すかさず後ずさり、相手へ視線を定める。瓦礫と共に舞う土煙がその正体をティアナから隠していた。
 しかし彼女は既にわかっていた。その正体を。
 土煙が晴れたとき、彼女の眼前に姿を消したセインが現れた・・・はずであった。
 しかし、実際に現れたのは、彼女が見慣れすぎた相棒・・・スバルの後ろ姿であった。
「まさか、そんな・・・!」
 ティアナは目を見開いた。
 毒に近い魔力を持った胞子をしこたま吸わせたはずだ。体の大半が機械であろうとも、動くことなどかなわないはずだ。
 だが、違和感はあった。
 やや水色に近くなった髪の毛の色と、人を小馬鹿にしたような微笑。
 それらが先ほど「素潜り女」と称した少女の姿と等しく重なる。
「さっきから驚いてばっかじゃん、ティーア♪」
 名前をわざとらしく強めて言う。声は紛れもなくスバルのものであった。
 しかし、ティアナは叫ぶ。
「違う、スバルじゃない!」
「その言葉、ソックリ返してやるよ」
 らしくない言葉を挑発的に携えて、左手の指先をティアナに向ける。
 鋼鉄に包まれた掌であった。
 更にその指を、3本に増やす。
「3分だ、あと3分でケリつけてやる!」
 その叫びと共に、左腕に付属した鋼鉄の歯車が唸りを上げる。
 それは更にガシュン、と薬莢を吐き出すと、スバルの全身に澄んだ魔力を行き渡らせた。
「ぶっとばす!」
 飾り気の無い言葉と共に、スバルは飛び出した。
 一直線の先にある、標的へ。
 純粋な加速は瞬間のうちにティアナとの距離をゼロとした。
 しかしティアナは気づけなかった。
 すでに懐に飛び込まれていたことに。
 0.1秒すら刻めない世界の中に、相手はいたのだ。
 それに気づき、足元に潜ませていた魔樹の枝たちを呼び寄せたときには、すでに鋼の拳が胸を刺し貫いていた。
 その背中から伸びる掌には緑色に染まった心臓のような形をしたものが握り締められていた。
 それはいくつもの管と共に、ティアナと繋がっていた。
「あ・・・ああ・・・ま、だ・・・!」
 手を振り上げ、樹を呼び寄せる。
 それらは足元から伸び、スバルの四肢の根を丁寧に刺し貫いた。
 しかし、決着はすでについていた。
 スバルの殻を被った戦士は、鋼の指先から与えられる方程式より、求めている解を探していた。
「分析完了・・・コアは・・・やっぱコイツだ!」
 そう叫ぶと、スバルは躊躇い無く、それを握りつぶした。
「あああああああ!?」
 断末魔と言うに相応しい叫びがスバルの耳を貫く。
 スバルは左腕を引き抜き、緑色の肉片を地面へたたきつけた。
 同時に右腕で、崩れてきたティアナの体を支えながら、ゆっくりと座る。脱力した背に、傷は一つもついていなかった。

 ―タイム、オーバー・・・♪

 脱力した声と共に、スバルの首が力なく垂れた。
 それから数秒の後、着ぐるみから抜けるように、スバルの背中から少女が一人、姿を現した。
「・・・二度とやんねっ」
 全身をゴキゴキとさせながら、かったるそうに眉をしかめるその顔は、紛れもなくセインのものであった。
 セインが立ち上がると同時に、ティアナとスバルの体が、寄り添ったまま地面に倒れる。
 すでにその地から、魔樹の枝は消え失せていた。
 それでも警戒心は解かない。
 セインは左右を見た。
 姉と、
 妹と、
 騎士、
 それぞれがそれぞれの敵だったものを抱き上げ、セインの方を敬意の眼差しで見つめていた。
「セイン」
 弱々しい声が、セインの膝元で生まれた。
「ありがと」
「そりゃこっちの、セリフだよ」
 そう言って弾いた人差し指は、白いハチマキの結び目を軽く揺らした。
 その表情は、純粋なマンゾクに満ち満ちていた。

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